ステイホームを経験したからこそ 気づけたことがある。 そんな自分に合う物件に暮らせたなら、 もっと楽しくなりそうですよ。

バタバタと忙しかった仕事も、 毎日のように飲み歩いていた夜も、 疲れて泥のように眠る日々も、 すべてがガラリと変化した。

今の自分の生活を 数か月前の自分に伝えても、 きっと信じてもらえない。

家でひとりで進める作業、 誰とも会わずに過ごす夜、 日付が変わる前に眠る日々。

そんなゆったりとした 時間を過ごしていく中で、 気づいてしまったことがある。

ずっと外の世界に夢中になって、 私、この家のなにもかもを ほったらかしにしていた。 キッチンもお風呂もトイレも、 床も窓もすべて、 まったくお手入れせずにいた。 どこかくすんだように見える部屋。 家全体がなんだか、 悲しんでいるように見えた。

そうか、これが今の、 私の家なのか。

そう思った瞬間に、 私の中のスイッチが カチリと入る音がした。

気に入って 越してきたはずの家。 魅力がたくさん詰まって、 輝いて見えていたはずなのに。

今までごめん、 ちゃんと見るから。 まずは玄関から、 新品みたいにこの手で きれいにしてあげる。

雑巾片手に、 ゴシゴシ、ガシガシ。 見ないふりをしてきた たっぷりの汚れを すべて消し去るように、 精一杯の力を入れて。

玄関の次は床。 家中の床という床を、 磨いて、磨いて、磨きまくった。

やわらかなブラウンの フローリングが ツヤツヤになっていく。 こんなにきれいに輝くのかと、 我が家の好きなところを 新しく見つけられた。

そうだ、この 板チョコみたいな扉も、 この家を選んだ 決め手のひとつだった。 久しぶりにまじまじと 扉を見てみたら、 昔と変わらずかわいいまま。 かわいいなぁと思う 気持ちの余裕を、 やっと取り戻したんだと思った。

ゴールドの取っ手を やさしく丁寧にぬぐったら、 「ありがとう」って 言っているみたいに きらりと光った。 こちらこそ。

久しぶりに コンタクトをつけたまま お風呂場をまじまじ見たら、 よくここまで汚したなと 自分に感心してしまうほど。 汗だくになるまで 水垢と格闘して、 結果的には勝利した。 やる気スイッチの入った 私の根性はすごいのだ。

掃除を始めるまではいちばん ウッと思っていたトイレ。 手を付けてみたら あっという間に夢中になって、 最終的には楽しんでいた。 汚れが落ちていくにつれ、 私の気持ちも晴れやかに。

着ていない洋服が たくさん詰まっていた クローゼットは、 まずは一度空にして。 外に出したものを ひとつひとつ、 これはいる？いらない？って 自分の心に問いかけた。

使わないものをぐちゃりと 放置していた上の棚にも、 しっかりと手を伸ばした。 今はクローゼットの扉を 開けるだけで、 ウキウキするのを感じてる。

玄関にあふれていた 靴たちも忘れずに。 これはいる？いらない？ 気持ちが動くものだけを ずらりと並べたら、 たまらないほど満足感。

革命的な大掃除の最後は、 汚れをたっぷり 吸い込んだカーテン。 お風呂でじゃぶじゃぶ、 足で踏んで汚れを抜いた。 水気を軽く絞ったら、 濡れたままカーテンレールに。

大きな窓からふわりと 部屋に入るやわらかな風。 踊るように揺れる 真っ白なカーテン。 こんなに気持ちよさそうに ひらひら揺れてくれるなら、 もっと早くきれいにして あげればよかったなと思った。

家の中でただひとつ、 ピカピカだったキッチン。 ろくに使ってあげられず、 放置されていた1くちコンロ。 美しさを保った姿が どこか切なげで、 これからの日々を 期待しているようでもあった。

きっとこれからは、 ここに立つ日も 増えていくと思うんだ。 突然あいてしまった時間を、 持て余すこともあるだろうから。 洗濯機に寄りかかりながら、 フライパンをひょいと動かそう。 やる気になったそのときは、 改めてどうぞよろしくね。

ずっと住んでいたのに、 私は自分の家を 全然見ていなかったんだなぁと 思い知らされる毎日だ。

これから先、 新しい家を見つけて 出ていく日が来るとしても。 その日がやってくるまでは、 この家が私を守ってくれる。 屋根が、壁が、窓が、 そっと私を包んでくれる。

だから私もね、 見てみぬふりはもうやめる。 家にきらわれないように、 大事にしていきたいと思うんだ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana

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