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大家さんっていう言葉が、好きなんです。- 物件ファンは、大家さんファン。

物件ファンは、大家さんファン。

忘れがちですが、世の中には、物件の数だけ大家さんがいます。たのしい物件には、たのしい大家さんがいるはずです。

大家さんと会ったことある方も、そうでない方も。不動産好きだったら、物件だけじゃなく大家さんも愛でましょう。

これが、新しい不動産の嗜み方です。

今回は、まめくらしの青木純さん。

新しい世代の大家さんのリーダーです。

壁紙が自由に選べるカスタマイズ賃貸住宅から、街の飲食店の経営、公園のリノベーションまで。今、もっとも「大家さん」という肩書きにこだわって活躍している青木さんに、不動産と大家さんについて伺いました。

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不動産っておもしろいもの

「不動産仲介業って、自分でやってたけど、おもしろくなかったんです。もちろん個人の経験の浅さはあるんですが、物件をちゃんと勧める機会が、あんまり作れなかった。

とにかく物件情報をお客さんより先に伝えなくちゃいけない、みたいな。いいものを選んで伝えるというより、新しいものを伝える、というスタンスになっていて。

見たこともない物件を、いきなり案内する、みたいなこともありました。物件を気に入ってくれたら幸せだけど、不動産を楽しんで案内している感じじゃないんです。

不動産っておもしろいものなのに、不動産業界がおもしろくなくしてる感じがあります。『情報屋さん』にならずに、『物件そのものの魅力』をどうやって伝えるか、みんな苦労してると思うんです」

不動産はだれのもの?

「不動産ってさ、そもそも、仲介会社のものではないのですよね。オーナーのものでも……厳密に言えばなくて。公共のものなんです。

たまたまそこに関わっている人が、大家さんだったり、地域の人だったり、不動産プレーヤーだったりするだけで、『社会のものなんだ』っていう。

『その街にどういう人が住んだらいいのか』というのを、ちゃんと物件とマッチングしていけば、街の個性は作れるはずなのに、むしろ失くなりつつある。

ぼくは、仲介会社を経て不動産情報のメディア運営側に行きました。メディアの果たせる役割は大きい。でもどこかで限界を感じました。リアルで誰かが変えていかないと、ダメだろうなって。

リアルに借りる人との橋渡しをする人がいないと、変わらないだろうなって、ちょうどそのときに相続の問題もあり、実家の家業の、大家さんに戻ったんです」

「住人と連絡を取るなんて」

「ぼく自身が大家さんになる賃貸マンションを見たとき、『この物件にまず自分は住みたくない』と思って。場所もスペックも中途半端だし、特徴もないし、選ぶ必然性がない。

空室になったばかりのクリーニング前の部屋に入ってみたんです。そもそも『住んでいた人からの愛着』をまったく感じない。例えば、たばこで壁が真っ茶色になってて、油でベタベタで、床も真っ黒になってて。

逆に、全部に期待できなかったから、思い切ったことできたんじゃないかな。割り切れたというか。それに、受け入れ難い結果も出ちゃってたから。東日本大震災の後で、空室率がすごく高くて。やるしかないなって。

ただ、やっぱりぼく自身も、初めは『旧態然とした大家さん』だったんですけどね。『住人と連絡を取るなんて!』とか思ってましたもん(笑)。初めはね。思ってました。

リスクがあるだろう、と。仲良くなっちゃったらビジネスライクに出来ないだろうな、と思って、会わない方がいいだろうと」

一緒に好きなもの探し

「それが、初めて住人と壁紙選びをやったときに、不動産会社の人にやってもらおうと思って頼んだら、『白がいいって言ってます』って言われたんです。

でも、借りる人に聞いてみたら、『白でいいですよね?って(不動産会社の人に)言われた』って言うんです。ああ、これは自分でやらなくちゃ、と思いました。

その時に、住人の人と一対一で向き合ったんですけど、条件の話とかじゃなくて壁紙の話だから、すごく自然に話せたんです。

『白だけでこんなに種類ありますよ』って言ったら、『え、白こんなにあるんですね!』って喜んでくれて。『あ、楽しいなコレ!』と思って。好きなもの探しを一緒にやる行為が、すごくいいんですよね。

その人はアパレルの仕事をしていて、普段どんな生活をしてますか、なんてプロファイリングしていったんです。もう必死で(笑)

『昼間から芝生の上でゴロンとしたくて』って言われた瞬間に、芝生の色の壁紙を見せたら『わたし、この色大好きかも!』なんて。『あ、この人そのものを理解する行為なんだ』と気がついたんです。

これから住んでいく人とそういう関係を作っていたら、ぜったいに後で揉めない。部屋に入る前に、大家と店子の関係がフラットになっていて、信頼まで貰えていると、賃料の未納とかないし、クレームとか心配しない。

『お客さんとの距離を近づけるのはいいことだ』って、自分自身も分かってきて。そこからは、壁を貼ったり、床を張ったり、一緒に作業するようになって。体験から自分の価値観も変わっていきました」

青木さんの著書。 大家も住人もしあわせになる賃貸住宅のつくり方

家賃って説明しようのないもの

「『住んでいる人を甘やかしてる』なんて言われることがあるんだけど、甘やかしてるんじゃなくて、『そこまでしてあげてもいいんだ』って逆に教えてもらえたし、信用してるし、あっちも信用してくれてるから。甘やかしてるのとは、ちょっと違うと思う。

結果として、入居期間が長くなったり、愛着を持ってくれたり。やっぱり愛着のある部屋だと、『次の人も大切に住みこなしてもらいたいなあ』って思うから。

この時代の不動産は、余りまくっているし、まだどんどん作っていくから、どんどん価値が下がらざるを得なくって。その時に、いい人が入ってくれて、いい家賃払ってくれて、住み続けてくれることが、いちばん大家さんには価値のあることだし。

家賃って、説明しようのないものなんですよね、結構。勝手に決められてるものだし、相場なんて、一般のユーザーさんにはそこまで分からないから。自分がどのくらいこの場所に払えるか、っていう価値観でしかなくて。

うれしいのは、『ぼくが大家やってるから、ここに住んでるんだ』って言ってくれる人がいること。じつは、物件そのものの価値はハードじゃないのかもしれない。

人の顔が見えてくると、共同住宅って、一気にパワーを持っていく。壁紙を替えられるとか、住まいを編集できるみたいなことって、入り口でしかなくて。そこはもう、特別なことではないんです。

建物のかっこよさじゃなくて、『こういう人たちと一緒に住んでいること』が価値になる。人とか、街とか、そういう情緒的なものも、やっぱり選ぶときに伝えてあげたい。そこでの暮らしに共感して部屋探しをする、というか」

大家さんって職業なんです

「『大家さん』っていうのは、職能に近いものになっていいんじゃないか、と思っていて。物件を法人で管理していたら、法人が賃貸人に契約上はなるわけだけど、その中で賃借人にとっては『だれが大家さんなんですか』というのは、人と人だったら、どこかで求められるはずで。

『わたしの仕事は大家です』みたいな、ちゃんと職業になること。だって漫画の〈めぞん一刻〉の音無響子さんは、管理人さんのはずなのに、あれって、読者の中では完全に大家さんでしょ。その家の、コミュニティマネージャーというか。

そう考えたら、楽しいと思うんです。たぶんシムシティとかやっていた人、大家さんになりたいはず。まちづくりに近いんですよ。人を集めて、コミュニティを作って、その街の魅力探しをして、価値を上げていく……というのが、大家さんの仕事だとしたら。

これからの時代、エリアの価値を上げないと、大家さんって生きていけないんです。どんなに人気のある魅力的な住宅をつくっても、街の魅力が下がってしまったら、いずれ人はいなくなっていくから、大家さんの仕事はまちづくりに直結するんです。

そんな話を、足立区の小学校で話したとき、子どもたちが『サッカー選手の次に大家さんになりたい!』って言ってくれて、うれしかったー。子供たちにとっても身近に感じてもらえる仕事なんだなーと」

青木さんのTEDトーク。 青木 純 at TEDxTokyo 2014

江戸時代の家守みたいに

「いい仕事なんです、大家さんって。ちゃんとやったら。『儲ける』というのが、お金の損得だけじゃなくて、コミュニティの価値と結びついていったら。

スペック的なものって、飽きるじゃないですか。高級マンションだって、人気の街だって、ずっと暮らしていたらいつか飽きるじゃないですか。しかもそういうスペックの価値は時代に合わせて、淘汰されていく。もちろんスペックにすがっている大家さんも。

これからは空き家だらけになってくる時代。タダでもいいから不動産もらってくれ、とか、固定資産税分だけ払ってくれたら万々歳、みたいな世界にぜったいなってくるから。

そのときに、大家さんという仕事はとても大切になってくると思うんです。実際に不動産をもっていなくても大家さんになる人が増えてきたらよいと思います。

例えば、落語にでてくるような人とまちが大好きな大家さん、そう、江戸時代の長屋の差配人であった『家守(やもり)』みたいな存在が、増えてきたらいいと思うんです。

そういう人たちが、わくわくする価値観でやっていくと、不動産は初めて、もっと楽しくなれる。だから『若い大家さん』をどうやって育てていくか、ということを今、考えていて。

大家さんて、子供がいないとか、子供がやりたくないとか、後継者問題がとても切実なんです。ぼくの話を聞きに来て、共感してくれるおばあちゃんもいるんだけど、家に帰ると誰もいなかったりして。

そうして、不動産が『みなしご』になっていく。だったら、人材バンクみたいな感じで、『家守』がいるみたいなのも、ありかもしれないなあ、とか」

大家さんだって怖いんです

「大家さんて……なんていうか、ネガティブになってしまうんです。住人から叩かれたらどうしよう、とか。怖いんです。お金を貰ってる訳だし。だから、自分で何にもやらなくなるのかも。管理会社に押し付けて。しかも大家さん同士のつながりだけだと、どうしても視野が狭くなってしまう。


住んでいる人じゃなく、不動産会社の方ばかり向いている。そのうち税理士というプレーヤーも登場したりして。言いなりになっちゃう。どんどん骨抜きにされていっちゃうんです、大家さんって。自分の意志が持てなくて、ビジョンもなくなる。それって悲しいですよね。

ぼくは『顔の見える大家さん』をふやしていきたい。住人と向き合う勇気のある大家さん。『住人をお金じゃなくて、人として見よう』っていうのが、たぶん、いちばん大事で。そう思った瞬間、ちゃんとお金になるんです。お金だと思ってると、お金は離れていくんです」

やっぱり愛なんだなあって

「相続する、自分は選べない与えられた物件なんだから、自分なりに編集して、特徴を見出して、やっていくしかないんです。箱としてだけ見ていたら、おもしろくないんだから。

どうやってラベリングして、おもしろくしていくか。それは、物件だけじゃなくて、自分自身もふくめて。一人の価値観で始めても、共感してくれる住人が集まれば、どんどん広がっていくから。

そこをちゃんとやれる人を、ふやさないといけないと思う。不動産屋さんにお願いするんじゃなくて、ぼくは、自分が楽しいから、自分でやってるんです、と言える大家さん。

ちゃんと大家さんをやっていたら、なにかその人なりの大切にしたい価値観というか哲学みたいなものが必ず生まれると思うんです。ぼくの場合は『愛』でした。だって、ぼくの場合、家業で入ったし、大家さんをやり続けるしかないと思ったし、嫌いだとは言えないから。好きになるしかなくて。

愛着を持たなくちゃいけないな、というときに、まず住んでいる人が愛着を持ってくれなくてはいけなかったし、いろいろ教わったんです。住んでいる人が幸せそうだと、大家として自信がなくても、物件がどんどんよく見えてきて。ああ、やっぱり愛なんだなあって」


青木さんは、当たり前のことを話している気がするのに、今の不動産シーンでは新鮮に聞こえるのが不思議です。

今や、物件だけではなく、街や地域のコミュニティに活動を広げている青木さんが、なぜ「大家さん」という肩書きにこだわるのか、聞いてみました。

「それは、大家さんっていう言葉が、好きなんです。気に入っちゃったんです。日本にしかないものだし、ずっとある職業だし、素敵じゃないですか。だから、ぼくは何をしていても『わたしは大家です』って言いたいんです」

物件ファンは、大家さんファン。

ここから、愛のある新しい不動産がはじまります。

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