25才大家女子「わたしブレてます(笑)」- 物件ファンは、大家さんファン。
物件ファンは、大家さんファン。
忘れがちですが、世の中には、物件の数だけ大家さんがいます。たのしい物件には、たのしい大家さんがいるはずです。
大家さんと会ったことある方も、そうでない方も。不動産好きだったら、物件だけじゃなく大家さんも愛でましょう。
これが、新しい不動産の嗜み方です。
今回は、トダビューハイツの戸田江美さん。 25才の女子が、大家さん。
デザイナーの彼女は、おばあちゃんの物件を継ぐことに決めました。
「うらやましい!」と思う人もいますよね。 「悠々自適じゃん!」と思いますよね。
お金のことはさておき、 大家さんって、どうやって始めるんだろう。
戸田さんの物件は、荒川区にあります。 都電荒川線の「東尾久三丁目」。 トダビューハイツ。
うん。地味でした。そこが好きです。 こんにちは、大家さん。
「今、3部屋が空室なんです」とのことで、4階の空いているお部屋でお話を伺いました。(エレベーターないです) 鍵をじゃらじゃらさせる大家女子。 大家さんは、鍵だよね。 大家さんって、どうやって始めるんですか?
「デザイナーとして働いていたんですが、たまたま仕事で大家さんの話を聞く機会があって。『そういえば、おばあちゃん、物件もってるな』と思い出して。まったく継ぐ気なかったんですよ。
『デザインやライティングの仕事をしていることも、大家さんに生かせると思うよ』と、そこで言っていただいて。その日に帰ってすぐおばあちゃんに『継がせていただきます』って。それが、今年の春ですね」
身の振り方を決めるのが、早いですね。
「あと、落語が好きで。落語では、大家さんって身近にいて、そもそも職業なんだ、というのも思い出して。『それになれるんだったらいいなあ』って。転職活動をしていた頃だったんですが、フリーランスの仕事も少しずついただいていて。これなら、大家の仕事もできるなあ、と」
大家さんって、職業なんですね。「何をしてるのか分からない人」って思っていました。
「おばあちゃんは、『いいよ』と言ってくれて。大家さん始めよう、と思ったら、ちょうど部屋が空いちゃって。お金をかけずに広告を作ろうと思って、トダビューハイツのサイトを作ったんです。
写真もやってたので、部屋を工夫して撮ったりして。facebookでシェアしてくれる人がいて、ちょっとアクセスがふえて」
トダビューハイツのサイト。 かわいく作ってあります。
「内覧に来てくれる人は増えたんですけど、いまだ契約にいたらず…という感じです。やっぱりね、興味持ってくれる人は、若い人なんですよ。若い人が気にすることって、駅から遠いといやだ、ということなんです。都電は駅に入らないみたいで(笑)
内覧者の方には、デザインなどの仕事がなければ、必ず会います。四十年になる付き合いの不動産会社さんがあって、電話で連絡くれるんですが、『あ、行きまーす』って。
『大家いるの、、』って、相手の方がいやな顔したら、わたしは消えることもあります。けっこういらっしゃる気がして。プレッシャーに感じる人もいますよね、たぶん」 まだ、入居してくれた人はいないんですね。 今は、どこをアピールしてるんですか?
「本を読んで、まずは『カスタマイズ賃貸』やってみよう、と思ったんです。襖とトイレの床は、無料で選んでもらえます。わたしも襖貼りのワークショップへ行って、帰って来てやってみたら、ぜんぜん貼れなくて。出入りの職人さんに苦笑いされて。
最初は、近所の新築マンションにも勝てる、と思ってたんですよ。『下町で、ちょっとおしゃれ』みたいな雰囲気を伝えたかったんですが、内覧に来てくれる人って、そこに評価軸をおいてないんだな、というのが、会ってみてよく分かりました」
でも、ちょっと楽しいですね。わくわくします。いわゆるリノベーション賃貸みたいにしないんですか?
「そこはわたし、ブレてますね(笑)。おしゃれにしたい、っていう気持ちと、この雰囲気が落ち着く、というのがあるんです。リノベーションするお金をかけて、人が入るかどうかも分からないし。今はこの街に住んでいる人と住もうとしている人の、住まいへの要望を探ってる段階です。
うちの木材って、ほとんどが四十年ものなんですよ。新しくしたら、もう出ないんです。職人さんも、ほとんど荒川区の人たちで、部屋によっては、職人さんの思い入れで、少しだけ変えて作っていたり。トイレの磨りガラスも、古くて手に入らないものなんです。うーん、おしゃれやめようかな…」 今住んでいるのは、どういう人たちなんですか?
「四十年くらい住んでいる方々が多いです。家族、ご夫婦、一人暮らし。わたしが生まれた時に、『江美ちゃん、おめでとうー!』って言ってくれた人たちばかりなんです。
六十代、七十代のご夫婦とか、わたしと同い年の男の子がいる家族とか。大家だけど、わたしが子どもみたいなものです。旅行している時に、粗大ごみを出しておいてくれたり。廊下を歩いていたら、『江美ちゃん、雨!』と傘を投げてくれたり。
ほとんどの人が長く住んでくれている方々、という物件なんです。だから、これから住人が入れ替わったり、周りに新築マンションが建った時、新しい人たちとどう付き合ったらいいのか、おばあちゃんにも知見がないし」 回転してないって、逆にすごいですね。このままでいい気もしますが、やっぱり新しい住人さんも迎えないといけないんですか。
「それはそうですよ、ほしいですよ!部屋が死んじゃいますからね。なんというか、空き部屋に入ると、ぞっとするんですよね。人が入ってない時間が長いと、なんかあります。
今は内覧の方がコンスタントに来てくれてるから、カードを書いたり、花を飾ったりしてるけど、ちょっと間が空くと、『おえっ』ってなります。怖いんですよね。他人行儀、みたいな感じがして。かわいそうだから、住人さんに来てもらわないと」
物件って、生き物なんですね。 戸田さんは、「大家さん」という仕事について、生まれた時から身についているものがある気がします。
「おばあちゃんに教わったことは、すごく大きいですね。スカイツリーが見える部屋があるんですが、住んでいる人に『磨りガラスだから昼寝しながら見れないよ』と言われて。それに限っては、無料で替えました。『長く入ってくれてる人に、お金を使わせちゃいけない』って。そういうお付き合いの仕方は、学びました。
内覧になるべく立ち会うのも、継いだ時に知らない住人さんが何人かいて、『それは増やしたらいけないな』って、おばあちゃんを見ていて感じたからです。
荒川区って、お年寄りばかりで、昔はいやだったんですけど、会社に入って引っ越した時に、すごく恋しくなって。大学の時に親を亡くしているので、思い出が逆に強いんです。
おばあちゃんにとっても、亡くなったおじいちゃんが残してくれた物件なので、思い入れがあるから続けているんです。ご近所でも、お話が来た不動産屋さんへ売ってしまって、自分は他のところに住んでいる、という人も多いです。どこかへ行っちゃいましたね」 なにがきっかけになるんでしょうね。
「今はまだ、分からないですね。迷っています。賃貸住宅で出来るカスタマイズのワークショップをうちでやろう、なんて話もあるんですが、ここまで人来ますかね…とか。『昔、部屋をシェアしてた人がいて、楽しそうだったよ』っておばあちゃんが言ってて。それもいいなと思って、近くに首都大学東京があるので、募集をかけにいこうかなあ、と思ったり。
荒川区に引っ越して来る友達が、『WiFiを使える場所がない』って言うので、うちで作るのもいいのかなあ、とか、考えたり。これからですね。いい人が入ってくれたらいいんですけど。できればクリエイターがいいかな。わたしの趣味ですね、話しやすいから。面白く暮らそうと工夫したり、発信してくれるじゃないですか。でも、『入らなかったらどうしよう』って、焦りながら寝る時もあります(笑)」 「荒川区に帰って来てから、職人さんが『うちのショップカード作ってよ』と声をかけてくれたり、地域の仕事が増えてるんです。商店街に遊びに行ったら、新しいお店ができてて、『うちで写真展やりませんか』って誘ってくれたり。荒川ケーブルテレビも取材に来てくれたんですよ。わたしは、荒川区に骨を埋めよう!と思っています」
なかなか言えない言葉ですね。
「じつは、昨年まで、おばあちゃんが家賃を回収してたんですが、チェックし忘れちゃったり、4階まで上がれなくなっちゃったりして、管理会社の方にお願いするようになったんです。
しばらくは契約があるんですが、落ち着いたら、わたしが住んでいる人と顔を合わせて、家賃の回収、やってみようと思います。もしかしたら、何かのきっかけになるかもしれませんね。住んでいる人は、いやかもしれないけど…(笑)」
25才、大家女子。 家賃の回収から、一歩ずつ。
戸田さんとトダビューハイツ、ますますファンになりました。
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