短期滞在者のつもりで住んでみて、
意外とハマってしまったのだった。

1LDKの簡素さがいいな、
そう思って居を構えることにした。

広い玄関の佇まいが、なんとなく、
昔よく出張で使っていたホテルを
思い出させる。

靴箱の中に靴は増やすまい、と
思っていたけど増えていた。

窓からの風景が気に入って、
日がな一日眺めていたりする。

お湯を沸かして、この間物産展で
買ってきたとっておきの明太子を
パスタで食べる。狭いシンクに、
洗い物はためないことにしている。

洗面台にも、出張の雰囲気がある。

一人で暮らすようになって、風呂の
時間が長くなった。

起こしてくれる人はいないけど、
静かで平和な寝室。

もともと短期の予定だったので、
収納を買わずにやりすごしていた。

なんとなく気に入って、気付いたら
ここに根を張るように人生が動き、
固定されていた。

明石海峡大橋が見える。
そう、行こうと思えば、向こうまで
すっと移動できる。

どこかに移動できる余地を残して、
ずっと一人で暮らしているのは
途方もなく贅沢なのではないか。

あと何年そんな贅沢が続くんだろう。
食後のコーヒーをすすりながら、
海の方を眺めている。