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おこめをつくる不動産屋さんのお話。

千葉県松戸市の八柱というエリアに「omusubi不動産」という、一風変わった名前の不動産屋があります。 松戸や浅草で、古い物件を蘇らせ、クリエイティブな入居者が集まる施設を多数運営しています。

その傍らで、入居者と共に田んぼを耕し、お米を収穫しています。 さらに、事務所のとなりにカフェスペースを設け、入居者どうしが交流できる場を作っています。

不動産屋さんがなぜ田んぼなのか。なぜカフェなのか。 「omusubi不動産」代表の殿塚建吾さんに伺いました。

「omusubi不動産」はどういう不動産屋なんでしょうか。殿塚

おこめをつくる不動産屋、と言っています。

おこめ?殿塚

はい、おこめです。 「自給自足できる街をつくろう」ということを掲げてやっていまして。 一人でこもって自給自足するのではなくて、 いろいろな住人がスキルを持ち寄って、顔の見える人と一緒に暮らしを作りましょう、と。 入居者の方たちと一緒に田んぼをやっているのは、結果的にその象徴みたいになっていると思います。

田んぼの話も詳しくお聞きしたいですが、まずは、そもそもなぜ不動産会社を始められたんですか?殿塚

うちの父がもともと浅草の不動産屋なんです。

実家を継いだ?殿塚

いえ、父の会社とは別法人なんです。 実家が不動産屋だったので、学生時代に宅建は持っていたんですが、不動産屋はなりたくない仕事ナンバーワンだったんですよ。いやだなあ、と思って(笑)

それがどうして?殿塚

当時から、「持続可能な社会」に興味を持って、そういう仕事に就きたかったんです。 でも無かったんですよね。 自分でそういう仕事を作ると言っても、何をしたら良いか分からないし。

それで、やっぱり不動産の会社に入るか、と思って。 新築を建てるのは嫌だったので、古い物件をリノベーションする会社に入ったんです。

なるほど。殿塚

そこで3年くらい働いて。 結構面白かったんですけど、「やっぱり環境の仕事がしたい」と思って、企業のCSR活動のコンサルなどをしている会社に就職しました。 大手電機メーカーの社員さんと一緒に、絶滅危惧種のトンボとかを撮影に行って、それをパンフレットにして、地域のこどもに配ったり。

やりたい仕事ができたわけですね。殿塚

できたんですけど・・・。

やっていくうちに大企業の飾りの環境活動ってあんまり意味が無いと思っちゃって。

でも、地域で一緒に手伝ってくれる農家の人たちは、「本物だな」と思ったんです。

それで田舎の方に行きたいと思って、房総にある「ブラウンズフィールド」という古民家カフェに行ったんです。 中島デコさんという料理研究家がやっている。

会社を辞めてヤギの世話。

会社を辞めて?殿塚

はい、会社を辞めてニートに。 会社でCSRの事業がなくなっちゃったんです。それで辞めようと。

「ブラウンズフィールド」には1ヶ月だけですけど居候させてもらって、ヤギの世話をしたり、じゃがいもを植えたりして暮らしていました。

それで、1ヶ月経って、このまま残らせてもらうか、これからどうしようというタイミングで東日本大震災があって。 それで一度、地元の松戸に戻ろうと思ったんです。

めまぐるしいですね。殿塚

松戸に戻ってみたら、ちょうど「MAD Cityプロジェクト」が立ち上がったときで。 古民家とかをアーティストに貸したいんだけど、不動産屋が一人もいない、と。 それで「やらないか」と声をかけてもらって、そこから「MAD City」の不動産事業の立ち上げに関わったんです。

そこから田んぼや、「omusubi不動産」につながるわけですか。殿塚

そうですね。

「MAD City」で働きながら、「green drinks 松戸」という活動を個人的に始めて、その一環で田んぼをやり始めたんです。田んぼはずっとやりたくて。 田舎の方に行ってお米を作ったり、家を作ったりできたら格好良いな、と思っていたんです。 「green drinks 松戸」では、ソーラー発電の音楽ライブやったり、廃材を集めて秘密基地を作ったりとか、大体40回くらいイベントもしていました。

楽しそうですね。殿塚

それで30歳になる時に、これまでやっていたことを活かして独立しよう、と思い、「omusubi不動産」を始めたんです。

父は不動産屋ですが、母方は農家で、農家のおじいちゃんにも憧れていたんです。 それが30歳くらいになって、ドッキングしてきた、という感じです。 2014年の4月からはじめて、もうすぐ3年になります。 最初は妹に手伝ってもらって2人で始めたんですが、最近は5人ほどでやっています。

不動産と田んぼはどういう関係になっているんですか?殿塚

田んぼは、あくまでライフワークというか、仕事って感じではなくやっているんです。 誰でも田んぼに来てもらえるんですが、「omusubi不動産」の入居者さんは無料で参加できるんです。 「omusubi不動産」で扱っている物件は、僕たちがサブリースしたり、運営に入っているものが多く、入居後も入居者さんとは関係が続くんですよね。

あとは逆に、田んぼに来てくれた人が、そのまま住人になってくれたりとか(笑)。 ですので、田んぼは「僕らはこういうことをやりたいんです」という象徴になっている気がします。

象徴ですか。殿塚

ひとり、伊豆から引越してきた画家の女の子がいるんです。その子が初めて事務所に来た時に、

「僕たちはこんな感じでやってます。田んぼとかやっていて・・・」

と活動の説明したら、

「た、田んぼ!?」

といきなり立ち上がって、

「借ります。もう、借ります!」

っていう話になったりして(笑)。まだ物件を見てもないのに。

それはまたすごい展開ですね。何がそれほど?殿塚

20代の女の子だったんですけど、そういうのに興味があったみたいで。 自分の食べ物をゼロから作っていく過程に触りたい、って。 最初は自由に絵を描ける物件を探して来てくれたみたいなんですけど。

食の部分をちゃんと抑えておきたい、という気持ちは分かる気もします。殿塚

震災以降、そういうことを気にしている方が増えているようにも思います。

入居すると、お米がもらえます。

入居すると何か良いことあるんですか?殿塚

3月くらいまでは、実際につくったお米がもらえます(笑) 最初は1合配っていたんですが、炊飯器で炊きにくいので、最近は3合お渡ししています。

おもしろいですね。田んぼが好きな方は多いんでしょうか。殿塚

田んぼが好きな方が多いかはわかりませんが、田んぼに一番たくさん来られるのは、30前後の女性です。 実は「omusubi不動産」で入居を決められる方で一番多いのも30前後の女性なんです。 あと、ありがたいことに最近は、すごく遠方から来られる方も多いんですよ。伊豆とか、大阪とか、岡山とか。 知り合いがいないので、こういう活動を通じて知り合いができる、というのも田んぼに来てくれる理由のひとつかもしれないです。

引越してきた人にとっては、知り合いができるまで面倒見てもらえるのはうれしいですよね。でも、なかなかそこまでやってくれる不動産屋さんは少ないのではないでしょうか。殿塚

普通の不動産屋さんだと、お客さんから連絡が来るとするとクレームなんですよね。「どこか壊れた」とか。 それが嫌だから、だんだん会わなくなっちゃうんですよね。 でも僕らの場合、物件が古いので、多少寛容になっていただかないといけないんです。 その時に、ちゃんとお付き合いがあると、関係性は変わってくるんですよね。

最近も、古民家風に直した家なんだけど、家が傾いていて窓がなかなか閉まらない物件に入居された女性がいたんです。もちろん契約前に、不具合もちゃんと説明をして。

そうしたら、 「この傾いた窓から隙間風が来ないようにしたりして、改善するのが暮らしの工夫だと思います。それを考えるのが楽しくて仕方ありません」 という内容のメールを頂いて。

そんなことを言ってくださるんだ、と思いましたね。凄く嬉しかったです。

それはすごいですね。田んぼ以外にも入居者どうしが交流できる機会はあるんですか?殿塚

八柱の「omusubi不動産」事務所で、最近まで「omusuBEER(オムスビール)」というのをやってまして。入居者さんとか、知り合いがomusubi不動産の事務所に集まってビールを飲むという、ただの飲み会なんですけど。

それが楽しかったので、事務所のとなりの空き店舗に、みんなでお金を出してカフェ(※)を作ったんです。

まだまだこれからですけど、僕としてはそこを入居者の方が集まれる場所になれば良いな、と思っています。

※ omusubi不動産は常盤平さくら通り沿いの商店街に店舗を構えている。カフェは並びの設計事務所、omusubi不動産、フードユニットら有志によってオープンした。

皆さんうれしいと思います。一方で、ビジネスとしてみると、そこまでやっても収益につながらない、という見方もあると思いますが、どういう整理をされているんですか?殿塚

たまに、イベントの準備が忙しすぎて、契約の準備が遅くなったりして、あれ?と思うことはあります(笑)

でも、意志表示というか。 僕らが「こういう風にやりたいんです」と言っていて、皆さんはそれに共感して下さって集まってくれていると思うんです。

その旗を降ろした瞬間に、おれは嘘つきになっちゃう、という気がして。

きっかけがあれば、コミュニティは勝手に作られると思うので、きっかけを作り続ける。 集まりたい人は集まればいいし、合わない人とは会わなくても良いし。 でも誰かと会いたいんだけどなかなか会う機会がないな、という方も多いと思うので、そういう人たちはどうぞ来てくださいね、というきっかけは作り続けたいんですよね。

あとは僕らもいい意味で楽なんです。 「お客さんどうしているのかなあ」と状況が分からないよりも、分かった方が。 「そろそろ引っ越そうと思っているんです」みたいなことも分かって、準備もできたり。

大家さんも関わられるんですか?殿塚

関わられることもありますよ。

例えば123ビルヂングというシェアアトリエのオープニングイベントをやった時に、大量のお酒を差し入れで置いていってくれる大家さんとか。「みんなに気をつかわせちゃうから」、って、差し入れだけ置いていってくれるんです。

8labというシェアアトリエは、元々二世帯住宅だったところなんですけど。木工好きの大家さんが今も8labの一部をご自分の工房としても使われているので、入居者さんと一緒に木工でものを作っていたりします。

(以前に物件ファンでご紹介した)あかぎハイツの赤城夫妻も、入居者さんと一緒に部屋を作ったりしていますしね。

一周して昔の不動産屋さん。

入居者さんはうれしいでしょうね。そこまで面倒を見てくれる不動産屋さんは珍しいと思います。どなたかの取り組みをモデルにされたりしているんでしょうか?殿塚

全く同じような取り組みは、あんまりないかもしれないです。 物件の紹介の仕方とか、クリエイターさんとのコミュニケーションとか、一つ一つの取り組みは、いろいろな方々のを参考にさせてもらっていますが。

ただ、おじいさんの時代には、入居者の世話をする不動産屋も多かったと聞きます。仕事の斡旋をしたり。 だから、おじいさんがやっていたことに戻ってきてる部分もあるかも知れません。 「一周して昔の不動産屋さんっぽいね」、って言われることがあります(笑)

エリア自体が盛り上がっていかないと、人が来てくれなくなってしまうので、いろんな才能を持った方と一緒にイベントをしたり、関係性を築いて、松戸とか浅草とかエリア自体を盛り上げられた方が、長い目で見たら返ってくると思ってるんです。

田んぼやカフェをきっかけに、人が集まり、くらす。 不動産屋さん、入居者さん、大家さん、三者の新しい関係が生まれていると感じました。

「一周回って新しい」不動産屋さん、自分の街にあったらうれしいですね。

(後編に続きます。)


omusubi不動産

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