「人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり」

哲学の道にある石碑には、 西田幾多郎氏の詠んだ歌が 刻まれています。 今回はそんな哲学の道のすぐそばの 個性的なリノベーション住宅の ご紹介です。

ベージュをアクセントにした 落ち着いた雰囲気の外観。 道路から屋外階段を上がった 少し高めの位置に玄関がある ちょっと変わったつくりに なっています。

中2階からアプローチすることで 玄関・階段・廊下がコンパクトに まとまり、さらに駐輪スペースまで 確保できてしまうという 一石二鳥のナイスアイデア。 1階には水回りと個室、 2階にはLDKと、 プライベートとパブリックが 振り分けられた空間構成です。

玄関は光の入り方が上品な 落ち着いた空間。 どこまでが既存部分で どこからが新規部分のなのかが わからないほど自然な リノベーションです。

玄関から延びる階段は 絨毯敷きで高級感たっぷり。 天窓から注ぐ光が 深い色味の木質の壁を照らし、 立体的な空間にさらに奥行きを 与えています。

階段を上がった先のLDKは、南北に 窓のある開放的な空間となっています。 屋根形状をそのまま見せた 勾配天井や天窓により、 縦方向の拡がりも生まれていますね。

キッチンは グレーの壁紙とピンクのタイル、 そしてつるんとしたステンレスに 歴史を感じる木製の吊り収納が 見事にマッチしています。 もともとこのままの形で ここにあったかのように 感じてしまうほど 新旧が違和感なく溶け合っています。

リビングと和室の間の壁には 三角形を切り欠かれた欄間のような 開口が開けられており、 障子を閉めていてもつながりを 感じられる空間となっています。 屋根を支える束からも 歴史を感じますね。

和室は壁一面の収納に、 ひと区画だけ飾り棚のような空間が 設けられています。 お花を飾ってみたりして、 ここを床の間に見立てるのも 面白そうです。

さて階段を下りて１階へ。 2つの縦窓や天窓からの光の入り方が ドラマチックですね。

1階は6帖と5帖の2つの個室が 続き間になっています。 建具を開けて広々とした 大きなお部屋として使ってもよさそうです。

通常天袋のある部分が 抜けているので、その分空間が 広がっているように感じますね。 オープン収納として使っても、 小物などを飾っても 楽しいスペースになりそうです。

水回りはきれいに一新されています。 お庭に面した窓もあるので 朝風呂も気持ちよさそう。

階段下のスペースを使ったトイレは 小ぢんまりとした落ち着けそうな空間。 天面室と合わせた床材も かわいらしいですね。

断熱には複雑な構造の リノベーションにも対応しやすい 「吹付断熱」という工法を採用。 高い天井や欄間でつながる部屋などの 個性的な空間をつくりながら、 快適な生活が送れるように 見えない部分にまでこだわりが 詰まっています。

もともとの建物の個性を残しながら 良いものへと変えていくのも リノベーションの醍醐味。 新旧が見事に溶け合う、 吾の道を行くような すてきなリノベーション物件でした。

文・佐藤シュン 浜松で設計事務所をやりながら、黒猫と暮らしています。