「一緒に暮らそう」は言えない私も、 「ルームシェアしない？」は言えた。

家賃も手頃だし、女性限定だし。 あれこれ伝えた理由の中に、 そっと含めた「住めるのはふたりだけ」。

3階建てのシェアハウスは、 女性限定、定員は2名。 お互い照れ屋で、言葉足らずで。 それでもこのシェアハウスの中に 私と彼女の暮らしがあることを、 きっとお互いに期待していた。

彼女が「いいよ」と頷いたときは、 思わず心の中でガッツポーズ。 3階に並ぶ2つの個室は、 どっちがどちらを使おう？ 「バルコニーがあるほうは 譲ってくれる？」の彼女の言葉に、 どうぞどうぞと思いながらも 「仕方ないなぁ」と返事した。

バルコニーなんて、どうぞだよ。 一緒に暮らしてくれるなら、 ふたりで過ごしてくれるなら。

玄関の扉には、視線を遮りつつ 光は通す美しいステンドグラス。

やさしい光を背中に受けながら、 リビングにいる彼女に 「ただいまー」と声をかける。 「おかえりー」の返事のたびに いつだってうれしくなるのだ。

1階にはリビングとキッチン、 バスルームもこの階にある。

吹き抜けの天井に、 窓から差し込むたっぷりの光。 彼女はソファで、私は床で。 ふたりでゴロゴロしながら テレビを見るのがいつもの日課。

シェアハウスだから、 生活のための家電が 最初から揃っていて助かった。 おかげで貯金がそこまで減らずに、 心に余裕も生まれている。

お互い料理は得意じゃないけど、 せっかくの広いキッチンだから たまにふたりで肩を並べる。 3くちのコンロが同時進行に便利だと、 ここで暮らして初めて知った。

キッチンのカウンターには、 たぶん大家さんチョイスの置物が並ぶ。 自分以外の物が置いてあるこの感じ、 実家を思い出してどこか懐かしい。

洗面台もゆったりサイズ。 彼女の大量のスキンケア用品が 収納の中に増えるたびに、 ここが我が家になっていくみたい。

最初は個別に洗濯していたけど、 「一緒でいい？」の彼女の提案で 今はふたり分をいっぺんに回している。 そのほうが安上がりだしね、いいよ。

バスルームの掃除は交代制。 彼女の掃除っぷりを見て、 なるほど意外と雑なタイプ……と ひとり納得するのであった。

トイレは1階と3階にひとつずつ。 相談したわけではなかったけど、 いつの間にか私は1階、 彼女は3階のトイレを使っている。

2階は大家さんのスペース。 私と彼女の部屋は3階。

「バルコニー付きの部屋がいい」 と言ったのは彼女なのに、 ひとりで外に出ている姿を まだ一度も見ていない。

夜になるとたまにふたりで、 バルコニーでポツポツと会話する。 「バルコニー使ってるの？」と 会話の中で聞いてみたら、 「いま使ってる」と彼女の答え。

「バルコニーがある部屋」 というだけで満足感があるのかな。 まぁ、彼女が楽しく暮らしているなら それでいいのだ、なんだって。

クローゼットはどちらの部屋にもあるから、 お互いに不満が出ずにありがたい。

ちなみにロフトも付いていて、 お互いに普段は使わないものを ポンポンと収納している。

使わないけど捨てられないものって、 意外とたくさんあるんだよな。 こういうちょっとしたスペースは やっぱりないよりあるほうがうれしい。

私の部屋も彼女の部屋も、 広さ的にはほぼ同じ。

お互いの部屋を行き来するより、 どうしてもリビング集合になる私たち。 それでも、ふたりだけのシェアハウス。 ゆっくりと私たちのペースで、 ここで暮らしていけたらと思うんだ。

いつかぽろりと口に出せたら、 それはそれでいいんだけどね。 でも、きっとまだむりだと思う。 「夜、部屋に行っていい？」なんて、 まだまだ心がくすぐったいから。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。散歩中におうちの外観をつい見てしまう。最近はInstagramのストーリーによくいます。 @kmn_nana