約300㎡のドックランスペースで、 あの子は今日も走り回る。 最初は勝手に遊び始めるのに、 すぐに私のところにやってきて 「なにしてるの、あそぼうよ」と 尻尾をフリフリ誘ってくるのだ。

1/3がウッドデッキのドックランは、 あの子の足にもきっとやさしい。 青い空、気持ちのいい風。 あの子の楽しそうな姿につられて、 思わず私も頬がほころぶ。 「楽しいねぇ、よかったねぇ」

ペットOKのこの部屋には、 つい最近越してきたばかり。 まさか犬と一緒に暮らすなんて、 昔の私は想像もしていなかった。

すべてがどうでもよくなって、 なんだかとっても疲れてしまって。 そんなときにあの子に出会った。 私の心にあるドロドロなんて ちっとも気にしない表情で、 「ねぇ、ぼくとあそんでよ」と。 あの子の瞳がそう言ったのだ。

ひとり暮らしでは広すぎるかも、 だけど我が家はひとりじゃない。 あれよあれよと気づいたら あの子のおもちゃが増えるから、 収納や部屋が多くてよかったなと思う。

ちなみにDIYもしていいそうだけど、 ざんねん、まだ手が回っていません。 あの子と遊んでいたら、 あっという間に時間が過ぎるから。

「ただいまぁ」と扉を開ける。 念の為玄関に付けたゲートの向こうで、 尻尾が千切れるんじゃないかと 心配になるほどのあの子がいる。

各部屋には扉があるから、 別にゲートを付けなくても 大丈夫なのかもしれないけど。 私の性格的に、きっと部屋の扉を 閉め忘れるだろうと思ったから。

ほら、こんな風にね。 開けっ放しが癖なのです。

６帖のダイニングキッチンは、 隣にある６帖の洋室とつなげて 広いスペースとして使っている。

あの子と遊ぶときも、 空間は広いほうがいいから。

料理をすると足元で、 あの子が「ほしいほしい」と 一生懸命アピールしてくる。

「だめです、これは人間のです」 そういうと、あからさまにしょんぼり。 その表情に思わず笑って、 「ほら、今日もいい天気だよ。 あとでドックランで遊ぼうね」と かわいいあの子をフォローするのだ。

あの子と一緒に過ごし始めて、 天気をちゃんと見るようになった。 晴れでも、雨でも、曇りでも、 ちょっと前までどうでもよかったのに。

気持ちのいい天気だなぁ。 そう思えることがうれしくて、 心がじんわりあたたかくなる。 あの子のおかげ、ありがとうね。

和室がふたつ、洋室がふたつ。 そのうちひとつの洋室は ダイニングとつなげているから、 残りは和室がふたつと、洋室がひとつか。 あの子は畳でもフローリングでも、 私がいればどの部屋でもいいみたい。 どこにいても、てちてち後ろに付いてくる。

あ、間違えた。あの子が絶対に 付いてきたくない場所もあった。

「汚れちゃったからね、 きれいきれいしようよ。ね？」 やさしい声を出してもダメ。 「どうしてこんなことするの」と 言いたげな顔で見てくるあの子に、 そっと優しくお湯をかけるのでした。

トイレはひとり、と思いきや。 たまに扉の向こうで ハスハス、クンクン聞こえます。

やったね、今日も晴れました。 「ドックラン、遊びに行く？」 私の誘いにあの子はルンルン。 その姿を見て、私もルンルン。 あの子のおかげで、 こうして今日も笑えるのです。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。散歩中におうちの外観をつい見てしまう。最近はInstagramのストーリーによくいます。 @kmn_nana