朝起きて、カーテンを開ける。 太陽の光に一瞬目を細めて、 そのあとに「今日もきれいだな」と あわいピンク色に対して思う。

ふわり、ふわりと揺れる花びら。 こんなにきれいな花だったのかと、 ここで暮らし始めてから はじめて桜の美しさを知った。 四角く切り取られた桜はまるで 一枚の絵のようで、思わず 時間を忘れて見入ってしまう。

ホワイトで統一された部屋に、 桜のやさしい色がよく映える。 この景色を邪魔しないように、 家具もシンプルなものを揃えた。

部屋は202号室。 17帖のシンプルな1Kは、 狭すぎず広すぎず。 私の暮らしによく馴染んだ。

部屋のイメージを崩さず、 キッチンも無駄がない。 スッキリと角に収まって、 自分の出番がないときは ホワイトの中で静かに眠っている。

バスルームには大きな鏡。 この部屋で過ごすうちに、 苦手な掃除も得意になった。 水垢やトイレの汚れは この部屋には似合わないから。

窓の向こうで愛らしい花びらが すべて散ると、この部屋は 少しだけツンとした印象になる。 それも、またいい。 記憶の中の桜を愛でながら 来年の春をゆっくり待つのも悪くない。

普段はほとんど部屋で過ごすけど、 春にはたまに散歩に行く。 サンダルをペタペタと鳴らしながら ふわりとした春の空気の中へ。

今日はどうだろう、 どんな姿でいるだろう。 想像しながら会いに行く。

そうか、そろそろ葉桜か。 それもまた、きれいなもんだ。 のんびりまったり歩きながら、 そんなことを思ったりする。 水の上を気持ちよさそうに 流れていく花びらを、 ぼんやり眺めるときもある。

あぁ、でも、やっぱり ここから見る桜が好きだ。 遠くで咲いて、遠くで散る春。 手が届かないからこそ美しい春。 私が季節を忘れそうになったら、 どうか窓の向こうから知らせてほしい。 「また来たよ、春が来たよ」って。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana