朝、目覚めた時に
こんな柔らかい光が降り注いでいたら
なんて幸福な一日の始まりだろうと思った。

この部屋に満ちる穏やかな光と、
囲まれたレトロな窓に
一気に心囚われてしまった。

この路地の奥にひっそりある感じも
コンパクトなサイズ感も
今の私の気分にピタリとハマった。

京都の冬は本当に冷える。

靴下重ねばきは当たり前、
おばあちゃんからもらった
分厚い半纏は欠かせない。

こたつをつけ
ストーブの火を点ける。
やかんをストーブの上に置き
しゅうしゅうと湯気が出てくるまで
ぼーっと注ぎ口を見つめて歯磨きをする。

磨りガラスって、なんて優しいんだろう。
乳白色のガラスを通る光も、
開け閉めする時に
かすかにカシャン、シャララと鳴る音も、
すべすべした手触りも好き。

この家は明治生まれだそうだ。
だから、この梁はきっと100歳超え。
頼りない私を
静かに頼もしく見守ってくれる。

どうしようもなく泣きたい時も
どよんとした雲が心を覆ってるような時も
タンタンタンと一気に坂を駆け上り

玄関に繋がる不規則に並んだ石畳を
ヒョイヒョイと跳ぶ。

南天の実が陽を浴びて
かわいく「おかえり」って、

そして、まぁるいお月さまみたいな
灯りも「おかえり」って迎えてくれて
私の心にも小さくポワンと灯りが灯る。

ストーブにやかんを置いて
しゅうしゅう湯気が出てくる頃に
ゴリゴリと珈琲豆を挽き始める。
やかんをおろして、
牛乳を入れた琺瑯のミルクパンを載せる。

こたつに正座をして、
ぽたりぽたりと落ちる茶色を見つめながら
時々天井を見上げながら
心が凪いでいくのを感じる。
熱いミルクをたっぷり注いだ
カフェオレのカップを
両手で包み込んでゆっくりすする。

このすべすべの床も
混ざり切っていない
優しいカフェオレみたいな色だ。
夏になったら絨毯は仕舞って
思い切りこの床を楽しむんだ。

日が落ちる前に制作をする。

絵の具の色は自然光の元で
見るのがいい。
だから、急いでない限り
日が落ちたらもう手を休める。
この部屋は小さなアトリエでもあり、
読書部屋でもある。

最近は寒いからもっぱら
こたつで読書の方が多いけれど。
窓に囲まれて小さなサンルームみたいで
すごく気に入ってる。

小さなお風呂にたっぷりお湯を張って
体育座りで入るのも好き。

古いもの好きだけれど
トイレはやっぱり新しいのがいい。
軟弱な現代っ子と言われようとも。

この近くには柳宗悦が住んでいたという
古民家がある。
柳宗理は知っていたけれど
柳宗悦は名前しか知らなくて
この家に来てから気になって調べてみた。

高貴なことを成した方かと思っていたら
人々がごく日常的に使うもの、
美の対象として見られることのなかった民藝品や、
無名の職人が作るものの中に
「平常の美」を見出した、と知り
一気に親近感を覚えた。

この家は素朴だけれど
静かな美が宿っている。
私も、高価なものでなくていいから
自分が本当に好き、良いと思えるものだけ
手元に残したり
選んで買うようになった。

まだ薄暗い朝に
鍋からホヤホヤと上がる湯気、
野菜を切った時の瑞々しい切り口。
それすらも美しいと知ったのは
この台所に立つようになってからだ。

朝、自分の息がゆらゆらと
白くのぼっていくのも、
なんとなく神聖なものに思える。

ガラス瓦を通して届く陽射し、
いくつもの磨りガラスを通して届く光、
晴れてても曇ってても
いつだって優しくて美しい。
その光に背中を押されて
私は今日も元気です。