守ってくれる場所が わたしには必要だって、 心のどこかで思っていた。 ここにいれば大丈夫だって、 そう思える避難所が。

暇つぶしにぼんやりと 眺めていたスマホで ポンと出てきたのは、 まるで要塞みたいな物件。

侵入者を阻むような 冷たさに、厳しさに、 わたしを守ってくれる 包容力を確かに感じた。

あ、ここに住みたいなって、 直感で引っ越しを決めた。

自分の部屋に帰るときの、 この眺めがだいすき。 「ちゃんと守ってあげるから、 もうがんばらなくていいよ」って 言ってくれている気がするから。

やわらかな部分を 部屋でさらけ出せるように、 ガチガチに固めた気持ちを 歩きながらほどいていく。

メゾネットタイプは、 自分のスイッチを 切り替えるのが簡単でいい。 1階は、生活をするところ。 チャチャッとご飯を食べて、 お風呂に入ってトイレして。

2階は、なにもしなくていいところ。 自分の中のスイッチを パチンとオフにして、 布団にもぐっていいところ。

外観はまるで要塞だけど、 中身は意外とやわらかい。 無垢材のフローリングが、 コンクリートのツンツンを 中和しているのかもしれない。 部屋の中にいる人には やさしさを見せてくれるところも、 気に入っているポイント。

とろんとした太陽の光が コンクリートに落ちると、 思わず触ってしまうくらいに ピカピカときれいに見える。 日差しでほんのり熱を持ち、 わたしの手のひらも温めてくれる。

たまに空が見たいときは、 大きな窓からバルコニーに出る。 安心できる場所から ぼんやり眺める外はすきだ。

しっかり雨風もしのげて、 開放的すぎないのがいい。 コンクリートの向こうに、 少し隠れて青空があるのが わたしはホッとするから。

料理はあまりしないけど、 気持ちがじくじくしたら 温かいものを作って食べる。 鍋とか、おでんとか、スープとか。

せっかくオリジナルの アイランドキッチンだから、 もっとおしゃれなものを 作ってあげたい気持ちもある。 だけど、無理はしないのが この部屋唯一のルールだから。

真っ白な水回りは、 目が疲れなくて落ち着く。 カラフルでポップな部屋と わたしの相性はきっとよくない。 掃除したあとの床のタイルを、 裸足でペタペタと歩くのが 気持ちいい。ひんやりして。

どうにも疲れてしまったら、 電気を消してカーテンも閉めて 浴槽にブクブクとしずむ。 頭までお湯に逃げ込めば、 だんだんと心のうみが あたたかなお湯に溶けていく。 まぁるい浴槽の形が、 さりげなくわたしに 寄り添ってくれている気がする。

さて、自分のスイッチオフ。 そう決めたら2階にあがる。 もうなにもしないぞと 自分に言い聞かせながら、 ゆっくり階段をトントンと。

少し低めの天井が、 自分だけの秘密基地みたい。 いろいろなものから そっと隠して、守って、 わたしを生かしてくれている。

たっぷりのハンガーラックには、 お気に入りの服だけが 隙間をあけて並んでいる。 ぎゅうぎゅうに収納せずに、 どんな服があるのか ちゃんと自分で把握しておきたい。

間取り図を見て いちばんウキウキしたのは、 「書斎」の文字だった。 心の栄養になる本を きちんと丁寧に並べて、 ずっと座っていても 腰や背中が痛くならない ちょっと高い椅子を置いた。 ここにいる間は、わたしは無敵。

読書の途中で眠くなったら、 本を持ったままベッドに。 布団に包まれながら ページをめくっているうちに、 いつの間にか夢の中。 これがいちばん寝つきがいい。

このマンションを見た人は、 どんなことを思うかな。 ズンとしたたたずまいに、 ちょっとひるんでくれたらいいな。 わたしはその強さに安心して、 ゆったりと過ごしていきたい。

どんなことがあっても、 なんとか部屋に逃げ込めば わたしはもう大丈夫。 要塞みたいな頼もしさで、 きっと守ってくれるから。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana