傾斜する敷地の斜面に挿入された
幾何学的なコンクリートフレーム。
周囲を拒絶するかのような
厳格なコンクリート壁だけでなく
フレームを採用したことで、
街に開いた印象を与える家。
のちに建てられる六甲の集合住宅などを
彷彿とする、安藤忠雄の初期住宅です。

場所は大阪・北畠の閑静な住宅街。
徒歩数分の距離には
同じく安藤氏が手がけた「住吉の長屋」や
「手塚山タワープラザ」などがあり、
安藤建築ファンにとっては聖地として
知られているのだとか。

こちら、1977年竣工の「帝塚山の家」は
1階が2つのブロックに分離されていて、
北側には玄関、LDK、水回り、
長い廊下でつながる南側には主寝室。
2階には子ども部屋と客室を配した
ゆとりある邸宅です。

それでは名建築ツアー気分で
順番に見てまいりましょう。
コンクリートフレームの間から
光がたっぷり注ぐエントランスを抜け、

建具のガラスを透過する光に満ちた玄関へ。

その奥には、やはりすみずみまで
光の行き渡ったリビングが広がります。
左奥に見えているのはダイニングですが、
なんだか暗い…というか、
明るいリビングとのギャップが
大きいと思いませんか？
それは両者を隔てる壁のせい。
この45度に配された壁が
グリッドで構成された等質な空間に
切り込み、光を分節することで
空間の機能をゾーニングしているのです。

ダイニングが取り込むのは
スリットから差し込む光と、

間口の狭い勝手口からの光のみ。
意図的に光を絞ったコンクリートの空間に、
オリジナルのダイニングテーブルをはじめ
黒の造作家具たちが溶け込むかのよう。

さらに床のタイルが
コンクリート美をより引き締めています。

ふたたびリビングへ戻ったときの
明るさのギャップときたら！
「これが安藤建築か…」と
思わず背筋が伸びてしまいます。

壁にかかっているこちらのアートは
お家のオーナーが竣工当初に
安藤氏からプレゼントされたもので、
次の住まい手に引き継ぎぐそうですよ。

リビングの大きな窓の向こうには、

傾斜地をそのまま活かした中庭が。
寝そべってゴロゴロ転がったり、
なかなかユニークな庭遊びができそう。

リビングから中庭を眺めると、
正面に見えるのは主寝室。
この両者をつなぐ廊下にも
安藤氏ならではの仕掛けがあり、

光の漏れるリビングを出て
アールの壁を曲がると、

これでもかと極限にまで
光を絞った暗い廊下がつづきます。

そして、その先に広がる
主寝室のまばゆいほどの明るさよ…！

窓際には造作の収納があり、
プライバシーを守ってくれます。

つづきまして、
かっこよすぎる階段を上って2階へ。
この階段はかつて愛犬の居場所だったそう。
そういう情報、大事。

トップライトからの
柔らかな光が落ちる階段を上り切ると、

なめらかなアールがお出迎え。
このアール、じつは壁ではなく建具。

2階の居室への入口なんです。
居室の写真はありませんが、

全部屋がこのバルコニーに
面していると聞けば、
このフロアにも居室と廊下に
光と影のマジックが効いてるんだろなと
容易に想像することができます。

ひとつだけ懸念点をお伝えすると、
こちらのお家、定期的に外壁や屋上防水の
メンテナンスをしてきたものの、現在、
複数箇所で雨漏れが確認されていて、
修繕のタイミングが到来しているそう。

けれども、それを前提にしたうえでも
後世に継承してほしい安藤建築。
貴重な初期住宅をていねいに
住み継いでくださるという方の
立候補をお待ちしています。