実は昔こういう所に住んでてさ、
窓の外を眺める君は
静かにスッと話しだした

勾配に建つ
見晴らしの良い低層団地の三階。
今ほど生活音なんか気にしない
古き、大雑把な時代。

その残り香を部屋に見つけては
私を誘って特徴を教えてくれる。

だからか、
普段はいつだって私の目を見て話す
君の目が、今日は私を見ない。

そんな事はお構いなしに、
そうそう、そうなんですよ〜！と
不動産屋さんが自慢げに
リノベーション内容を語る。

元々は2LDKだったんだろうね。

不動産屋さんも断定しなかった事を
くい気味に断定口調で話す君は
何かに少し
苛立っているようでもあり、
誇らしげでもあり。
どこか声のトーンも低く感じた。

その刹那、
LDKが広いのが良いよね！

一転、少し芝居がかったような
少し媚を感じるような声を上げつつ
こちらを振り返る。

料理中に床が汚れても
掃除しやすそうだし、
玄関から続くこの土間サイコー！
って、

料理はほとんどいつも
私の役割なんだけどな
と思ったけど、今は言わない。

代わりに君の好きな
民藝の器が
良い感じに飾れるねって。

そうしたら
また、器の「やわい屋」さんに
買い物に行かなきゃ！
<https://yawaiya.amebaownd.com/>
良いね！せっかくなら
ご近所の「閃き堂」で
あのカレー食べたい！世界一！
<https://www.hiramekido.com/>
そんな感じのやりとりで、
いつもの感じに戻るかなぁと
思ったんだけど…
バルコニーの収納とか

扉の古めかしいデザインとか
いちいち止まってたね。

作戦会議にと立ち寄ったカフェで
辛抱たまらず
「何か思うところでも？」と
思わず聞いて、
「あぁごめん、懐かしすぎて」
とだけ言われて肩の力抜けて後半戦。

不動産屋さんには無理言って
先に帰ってもらって
2人で部屋でゴロゴロしてみる。

寝室もさぁ明るいの良いよねぇ。
そうだねぇ。
剥き出し配管ヤバイ。
あと私
この洗面所もオキニだわ。
古めかしいスキー発動だね。

だって木製の扉とかなくない？
木製って言ったら
やっぱキッチンでしょう？

あぁ料理しないから
興味ないかもだけど。
むっかー。
そんな事より
この換気扇もパナイよ。

言われてみれば蛇みたい。
大きな蛇。
なんか飾る？
蛇のぬいぐるみとか巻きつける？
…なしだわー。
…サーセン。
あ、このコンセントの並び
可愛くない？

これテレビ？ネット？電話？
何用のコンセントかわかる？
全然。
誰かやってくれるっしょ。
ところでさー
うーん？
実は以前こういうのに住んでた時さ
好きじゃなかったんだ、家。
家族でギクシャクしだした頃で…。
ほー。
家にいづらくて夜遊びして、
遅くに帰って親と喧嘩して…

だから最初ちょっと、
うん、ちょっとだけ
ナーバスだったんだと思う。
うん。
ごめん。
もう大丈夫？
うんー。
なんか良いなーって。
へ？
古いのもありだよね。
だからそう言ってる。
うん。
…。
ほんとごめんねー。
…今夜はカレーにするか！
うん、ありがとう。
これからもよろしくお願いします。
よし…肉、牛肉にしちゃおう！
たまにはビーフカレーで。
わーい、じゃさ
実家から送ってきた玉ねぎ
私剥くね。
まだ土間じゃないんだから、
床、汚さないでよ？
はーい。



一人で辛かった思い出は
二人で上書きすれば良い。
家族の辛い思い出も、
新しい家族の思い出で、
笑い飛ばして上書きしていこう。