あなたとの
小さな幸せ。
その事だけ
考えて。

京都に探した家は、
訪ねてみると
想定より
随分と町家感があって

どこかに
不具合でもあるのかも
そう穿って考え
しばらく身構えていたのも
今となっては懐かしい。

「料理が、好きなんです、
二人とも」

自分たちの事を
人様に紹介するのは
ずっと得意じゃなく、
ニコニコと
カウンター向こうで笑う
不動産屋さんを
何度も
苦笑いに追い込んだ事もあり…
それで今回も、
不動産屋さんに伺うのが
正直気のりしなくて。

気持ちをあげるため、
新幹線を降りたあと、
真っ先に
大好きな恵文社さんへ向かって
<http://www.keibunsha-store.com/>
海外の料理本と
山ごはんの本を何冊か買って。

おかげで
ほくほくとなっていたからか、
不動産屋さんが
うまく誘導してくれたからか、
はたまた抱えた書籍のおかげか、
料理好きを告白できて…。

そうしたら、
ふと思いついたように
この物件はいかがですかと。

それからは
各部の写真を見せてくれながら

まさに立て板に水のように
物件のいいところ、
素敵なところ

まるで我が事のように、
立地も含めて
あれやこれやと嬉しそうに
お話ししてくださり。

それでも何よりやっぱり
このL字キッチンが
決め手でしょう、と。

そこまで
一気にまくしたてられた後、
ふと照れ臭そうに
「私も料理、好きなんです」
と、不動産屋さんも
告白してくださって。
ああ、料理も
不動産も大好きなスタッフさんのいる
ここにきてよかったな、
って。

それから
とにかく一度みてみましょう
となって
今は宿屋として稼働中らしい
この物件のスケジュールを
確認をしてしてくれたところ、
たまたま今からなら大丈夫とのことで
大急ぎで現場へ。

そうしたら本当に街中に近くて、
建物は京町家という感じで、
それからキッチンも本当にL字で。

室内くまなくご案内いただいて
不動産屋さんと
キッチンに並んで立って、
調理の真似をしてみたり。
キッチン横のダイニングに
横並びで座って
小さなお庭を眺めたり。

そうしたら
このお庭に殊の外惹かれ、
お庭を眺めるためだけに用意された
と言って過言でないほどの床の間に
二人で並んで座ったり、
濡れ縁にも出てみたり。

そうしたら
以前二人で行った龍安寺の
つくばいに似た
吾唯足知のそれがあって。

言葉の意味を考えた時に
ああ、そうですよね、と。

それで
二人でここに住みたいと、
あなたにわがままを
言わせていただいたのでした。

ここで暮らしたいですと。

ここで、庭を眺め、
変わりゆく外の空気に触れ、
二十四節気に沿って
少しづつ暮らしを変化させ、

はしりのものを食べて、
体を養い。
そんな四季を何度も過ごし、
二人でできるだけ健康に
歳を重ねていく。

それが私の幸せ。

町に近いのは
年老いてからの買い物にも、
たまのご馳走にもちょうどよく。
少し足を伸ばす週末観光にも便利で、
不動産屋さんとの相性も良くって、
これ以上は過分と思えたのが
それが私の一番の決め手。

最初でそして
最大のわがままだったかもだけど、
ありがとう。
ここで過ごした時間、
私はいつも幸せでした。
これからも。