低いソファが好き。
ベッドも低いものが好き。

洋室でも和室でも、
床に近い暮らしが好き。

好きというか、
もうずっとそう暮らして来た。

このお家も
そうやって暮らす自分の姿と、
遊びに来てくれるかもしれない
あなたの姿を思い描いて、決めた。

春に初めての一人暮らし、
たなびくカーテンが、
優しく部屋の中を踊る。
それを眺める優しい笑顔のあなた。
そんな期待に
その小さな胸を膨らませて。


あっけない、そう言えるほど
あなたが遊びに来てくれるまで、
時間はかからなかったけれど、
それでもなかなか先には進まない。

決して狭くはないけれど、
驚くほどの広さもない我が家。

大人二人が動いていると、
それなりの接触は生まれる、はず。

それでも
肌が触れ合う事は数えるばかりで

まるで猫の様に
あなたはいつもスルスルと。

少し残念な気持ちと、
拍子抜けな気持ちと。

それでもあなたはこの部屋を
自分の家のように気に入ってくれて
毎週のように顔を出して
なびくカーテンに撫でられながら
窓際でうたた寝したり。

その姿がかわいくて
昨夜から煮込んでた料理は
準備できたけど
出しそびれたんだよねって言うと

あなたは途端にお腹を鳴らして
思わず二人で笑う。

照れ隠しだったのか、
何よりこの部屋の、
なびくカーテンが好き、
カーテンと相性の良い部屋だよね。
って突然言うから、
うたた寝するあなたも込みでね、
って。
そう返すのが私の最大の勇気。

（気づいてたかな？）


そんな二人のお気に入りの
カーテンが似合うお部屋。


カーテンを開けてても
気兼ねなく暮らせるくらい
部屋の前に障害物もないのだけれど

それでもほとんどいつでも
カーテンはかかっていて、
なびいていた。

夏の暑い盛り、
クーラーが得意じゃない二人は
代わり番こに
冷たいお風呂につかっては
扇風機が大活躍していた。

そんな時、
二人で大の字になって寝転んでも
それでもまだ
さして触れ合わない二人だったけれど

窓の外の景色の光と色が
徐々に変わりだしたころ
秋の風は二人の間にも吹き出したのか

一度、ふつりと
あなたの来訪が無くなって…
しばらくの時間が過ぎた。

寂しかったけれども、
これで
私の心も冷え込んで行くのかな
って思ってた矢先に外で
私の帰りを待っててくれたあなた。

小雨交じりの雪が降りはじめていて
とりあえず、大慌てで着替えさせて

それから
外気で冷えた体を温める為にと
作ったグリューワインが、
体にじんわりと染み渡るように
あなたはゆっくりと話してくれた。

言葉を選びながら
あまりにも入り浸りすぎて
私の迷惑になるのでは？と気にして
距離を取ってた事、
でもおかげで気づいた気持ちを
ゆっくりと。
それに答えるように私も
ゆっくりと。

換気にと少し開けた窓のおかげで
時々小さくはためくカーテンを
二人で見つめながら
毛布にくるまって話したね。

その夜に初めてみた
繊細で華奢なあなたは
それでも
いつもと同じように優しく
そして柔らかだった。


それから少したって
我が家の荷物が
いくらか増えることになり
収納の整理が大変だったけど、
案外と収納力が高くて、
なんとかなった。すごい、我が家。

ただ、家具好きなあなたが
どうしても手放したくないっていう
ほとんど荷物も入っていない
いくつかの背の高い家具のおかげで、
部屋の景色は少し変わって
少し窮屈になって、
おかげで毎日のように
私たちは触れ合って暮らしている。

今日も変わらずあの、
カーテンの似合う部屋で。
ラブチェアに並んで腰掛けて。