「自分らしさ」

その言葉に
本当に自由な自分自身があるか
いつも疑問に思っていた。

ただの
「無い物ねだり」のように
聞こえてしまう事の方が多いのは
私がハスに構えた眼差しで
世界を見ていたから…
という理由だけでは
きっとないはずで…。

でも、
自分自身の「自分らしさ」は
探し求めるのではなく
思わぬところから
不意に見つかったりもするものだなと
このLDKで寛ぐ今なら言える。

ギャラリーのように、
自分の持つあれやこれを
セレクトして飾るように収納する
この壁面を眺めながら。
君は「へぇ〜！！」と呟いた。

呟いたきり、
らんらんとさせた目とは反対に
言葉は何も発しない。

心地よくも、恥ずかしい時間。

自分の思わぬ一面を見抜かれた時のような、
秘めたる性癖を言い当てられた時のような、
そんな、ね。

ボクらは共に
重度のインターネットユーザーだけど、
互いに履歴書を読み上げながら会話できるほど
自分自身をコンテンツ化しているわけでも
無遠慮さを手に入れているわけでもないので、
お互いを知り合う時には
どうしたって手探りになる時がある。

そして今日はそんな大事な日。

棚の端に、
小さなトロフィーを見つけて君は
これはなんだ？と言わんばかりに
ボクを振りかえる。

そしてまた、
異国のまじないに使われるという
異形の、でも少し愛らしくもある人形を
その手に乗せてこちらを見つめる。

「犬、…みたいだなぁ。」
思わず心の声が溢れていた。

引き続き
小上がりの床下収納を開けては
感嘆符しか口にしてないような君が
バツの悪そうな笑顔で振り向く。

その笑顔をみて笑うボクの
不器用な笑顔をみて
初めて君は純粋な笑顔で笑う。

ねぇ、玄関横の
土間になったワークスペース？
行ってみていいかな？と
どんどんと積極的になる君

いつもここで
私にメールをくれていたんだよね？
という期待を込めた問いかけに。

うーんと答える。

ここはボクが「私」である場所で、
ボクがボクだけどボクじゃない場所。
だからかな、
ここで君にメールを送る事はないんだ。

家に帰って真っ先に座る場所だし、
洗面も身支度も整えられるし、

小さな冷蔵庫も持ち込んで
仕事の一休みだってここで済ませる。

なんだったら
親兄弟への連絡もここだし、
食事も半分はここで食べているかも。

そんなとてもお気に入りの場所。
でも、ワークスペース。
気持ち的には部屋の外。
（室内なんだけどね。）

君に少々長いテキストを送るのは
決まってLDKの横のこのスペース。

ここはもう自分の部屋の中。

WICを隔てただけで
私は別人。
同じ人間だけれども、別人。

そう考えると、広くって、
二つのデスクがある家だから
君と出会えた気がする。

二つある、それが大事。

そしてこの
飾り棚のある小上がりがあるからこそ
自然と自分と向かい合って
リラックスして自分を受け入れられて、

心健やかに暮らせているからこそ、
君が出会いに来てくれたのかも。

そう思っている。

お部屋探偵を続ける君が
広い！広い！とお風呂を眺めたり

トイレを存外入念に調べたりする
君のその後ろ姿は

想像していた通りでもあり、
想像を軽く越えた元気さもあり、
微笑ましくて、愛らしくチャーミングで。

最初から
軽くトクンと高鳴っていた
ボクの心は今はもう
体全体にまで響き渡るような
脈動を打っている。

そう、ボクも私も
もう幸せな未来を夢見ているんだ。