静かな夜に、コンロにかけた豚肉が
煮える音だけが聴こえてくる。

ワンルームにしたのは経済的な
理由もあったけど、それ以上に、
台所で過ごす時間が好きだからだ。

二口のガスコンロを、実質一口で
使ってしまう中華鍋を置いて、
そこに水を張り、豚肉を茹でる。

休日に料理をしていると、小窓の
明るさにびっくりする。
いつもダイニングテーブルで作業を
していたから、こうして、横に
カウンターがあるのが嬉しかった。

シンクに落ちる水の音すらも、
自分が自分に飯を食わせていると
生々しく感じられる。

少し変形した部屋には、ベッドと、
小さな棚ぐらいしか置けないけど
それぐらいがちょうどいい。

ぐっと壁に寄せたベッドと、
キッチン横のカウンターが、現在の
わたしを形作るすべてだ。

一応、備え付けの収納として簡素な
クローゼットが付いていたのが、
大変ありがたい。

簡素といえば、こちらも。
気取る必要が自分にはない、と
信じ切っている洗面台。

実家に居たころは出来なかったけど
湯船でぼんやり動画とかを見て、
2時間ぐらい過ごすのも好きだ。

すっかりのぼせた頭で、洗濯物を
がんばって干しに行く。

その間、ずっと台所では豚肉が
茹でられている。戸を開けたら、
いい匂いが外に出ていった。

みんなもう、夜ごはんは終わって、
眠るような時間なんだろうな。
わたしは、次の一週間の保存食を
仕込んでいるところだよ。

清々しい朝、とりあえず共用部を
掃除する癖がついた。

自分ひとりの生活の面倒を見る、
ということを強烈に意識させられて
いい部屋だな、と思う。

きっと引っ越しても、わたし、
炊事の気配のすぐそばに自分の机を
持ってきてしまう。