仕事には疲れているし、
人生にも疲れている。
でも、
どちらにも
満足していないわけじゃない。

ただ、
心休まる時がもう少し欲しかった。

だから、ここを借りた。

ただ
都心の広く見晴らしの良い部屋から、
ここに引っ越した時、
恋人も友人も少し驚いていた。

7畳足らずのワンルーム。
その全てがコンクリート土間。


彼らの反応こそが
一般的な反応なのかもしれないけれど、
それでも
真に私の心の休まる時はここにある。

その、
私にとって心休まる時というのは、
愛車に跨って、
あてもなく海沿いなんかを走る時と、
こうしてその愛車を
ぼんやり眺めている時。

ベッドに腰掛けて、
お風呂に入りながら、
トイレに座っている時も、
愛車を眺めてぼんやりとできる。

それは
スケスケのおかげとも言える。


おかげで、
いつだって愛車を眺め
ぼんやりと…


ぼんやりする時間の大切さを知ったのは
比較的最近で、
「ぼんやり」と、
言うのは簡単なのだけども、
私の人生に「ぼんやり」と言う時間は
正直、ずっとなかった。

今思い返しても
いつも何かを考えている。
そんな人生だった。

仕事のこと、進学のこと、
家族のこと、将来のこと。
それに
もっと単純な、
例えば今食べている晩御飯のことや、
数字の3の形の面白さについてや
虫の心臓がどこにあるのかについてや
あてどもないことを
どうしても考えてしまうのが私だった。

ただ、今
この部屋で愛車を眺めている時は
本当の意味でぼんやりとできる。

楽しかった愛車との旅のことも、
惚れ惚れするその美しさに関しても、
忘れたわけでないけれど、
具体的な何事も考えることなく
本当にぼんやりとできるのだ。

歯を磨きながらぼんやりとして
小一時間磨きっぱなしだった事もある。

お風呂につかったまま
風邪をひきそうになった事だってある。

そのくらいにぼんやりとできて、
おかげでその度
心の負荷がフッと軽くなる。

本当にこの部屋に引っ越して来てよかった。

最近は友人から預かった猫も居着いて、
それも新しい癒しになった。

家賃も随分と安くなって
週末に使える余裕も増えたし、
心の充足も今までにないレベル。

仕事も人生も
折り返し地点と言われる
タイミングだけど、
ここからもっと頑張れる。
そう思える部屋に引っ越せて
本当によかった。

いわゆる常識に流されず、
自分の直感を信じて
本当によかった。