ちょっと前から続いたすれ違いは、
黒板に書いてあった伝言のおかげで
なんとか解決できた。

寝室もリビングも一緒で、お互いの
個室がない部屋だから、いつか、
そうやって爆発すると思ったんだ。

家に帰る足取りは重かった。
意味もなく宅配ボックスを覗いて、
時間をすこし潰したりして。

「ただいま」とドアを開けて、
鍵を靴箱の上に置く。

寝室に人の気配はない。

押入れに隠れるような年でもない。
意を決して、リビングに向かう。

テーブルの上には大好物が並んで、
それで、黒板にはごめんねの文字。

まだキッチンにいる同居人に、
こちらこそごめんね、と謝る。

ご馳走が並ぶディナーの後片付けは
こちらがやることにする。
二人でお揃いのエプロンを付けて、
ぎこちない会話が解けていく。

黒板に小さく書かれたごめんねの
文字を消して猫の絵にする。
それで、互いの予定を書き合う。
(この一週間ほど、ずっと空欄で
さみしかったから)

リビングにある引き戸の部屋は、
どう使おうか迷いに迷って、互いの
書斎のように使うことにした。

違う制服に文句をつけながら、
喫茶店で向かい合って勉強した頃は
二人で暮らすことなんて
想像出来なかった。

洗面台に並んだ二人分の歯ブラシと
その他、化粧品のたぐい。

お風呂掃除をした人が一番風呂、
というのは二人で話し合って決めて
黒板にルールとして書いてある。

リビングに戻ってくると、すこし
開いた引き戸の向こうで、
彼女が作業をしているのが見えた。

黒板に伝言を書いておくというのは
なんだか学生みたいでおかしい。
バルコニーで洗濯物を干しながら、
思い出し笑いが出る。

たまにすれ違うけど、あの一言で
二人とも意地を張るのをやめられて
フラットに戻れることがわかった。
個室はないけど、そうやって、
うまいこと暮らしていこう。