この風情にぐっとくる午後。
崖の脇の桜の木を眺めている。

それも、こんな高台の眺めなんです。
それでいて、東横線の駅から徒歩5分。
大学のキャンパス内を通って帰るそう。

赤い屋根の、築60年近い平屋建て。
なぜか文学の香りがするのは私だけか。
ここで学問と放蕩の日々を送ってみたい。

ああ、やっぱり階段を上ってくるんだな。
庭は広そうだし、裏山は林になっている。
高台で一人、どんな暮らしになるだろう？

昔、偶然知り合った漫画家の青年が、
やはりこんな平屋住みだったのを覚えてる。
ちゃんと表札を掲げてたのが彼らしかった。

平屋って、小さくても自分の城という感じ。
他の家よりも「自分だけの世界」が濃密で。
かれは南方の木の人形を沢山ならべていた。

私もここに住んだら、自然とそんな風に、
息を詰めて自分の世界を作っちゃいそうだ。
だけど、ここって風通しも良さそうなんだ。

いろんな方角に窓がたくさんあるのだし、
ほら、お風呂からも桜の木が眺められる。

こういう風通しの良さって、だいじだな。
くだらない想念も一緒に消えていきそう。

ああ、見るからに押入れだったのだろう。
ここにレコードプレーヤーを置きたいな。
額縁に入れた絵を飾ったり書棚にしたり。

それで、こちらが元々は床の間だった。
リノベーションでちょっと面白い空間に。
なんとなく、コーヒーテーブルでも置く。

洗面台、あらかじめ懐かしい仕上がり。
庭のそばの窓際で場所がおかしいけれど、
いやいや、朝ここで顔を洗うのがいいんだ。

そして、高台で、平屋で、桜の木があって。
開花を想像すると、むせ返るような寂しさ。
ここまで甘美な寂しさ、青春に似合ってる。