二人とも特にゆかりはない。

長野県松本市。
市街から少し北へ上ったところに、
浅間温泉っていう古い温泉街があって。
ぼくの松本転勤が決まって、
ノリで部屋を探したら、
意外とすぐに見つかった。

冗談混じりで「温泉街に住んで見る？」
と聞くと、ワサオは「いいと思う」って。
そんな感じで、温泉付きマンション。

不動産屋さんには、
「温泉なんてすぐに入らなくなる」
って言われて迷ったけど、
ふたりで毎日パジャマで通ってる。

お湯が熱くてびびったのは初めだけ。
今はこのくらいじゃないと物足りない。

冬でも汗だくで帰ってきて、
すぐにＴシャツに着替えてしまう。

ふたり暮らしには広いけれど、
このタイプしか空いていなかった。
東京と比べれば、それでも安いと思う。

そうそう、和室もふたつある。
われわれには洋服とかたくさんあるから、
と思っていたけれど、片方は持て余してる。

ね、とても広いでしょ。

扉開けちゃえば、14畳もあるのです。

でも、この広さ、両親とか友人たちが
泊まりに来た時とかで意外と活躍する。
すごい満足して帰ってくれるんだよね。

この温泉街の部屋のおかげで、
おたがいの知り合いとも仲良くなれたり、
僕らのコミュニティが一つになりだした。

キッチンも新しいものになっていて、
僕たちはパンとか、梅酒とか、味噌とか、
手作りしてるのも東京ではなかったこと。

こっちの部屋は寝室としてつかう。
ワサオは「和室に布団でもよいよ」
って話だったが、日当たりのいい部屋で
フカフカのベッドで目覚めたいと思ったの。

洗面台も新品で、

トイレもシャワー付き。
下の温泉にはないから、
こっちで済まして行かないと。

窓の外には、ちょっと寂れた温泉街。
最初は一年だけのつもりだったけれど、
お湯につかると、先のことなんて忘れます。