彼女がいきなり出ていったから、
布団を一つ捨てて、文机を買った。

出ていったと言っても同棲なんて、
この部屋ではできっこなかった。
もともと野良猫のような女だった。

玄関先にあったカラフルな靴は、
ある日いきなりなくなった。

靴箱のなかに色がない生活にも、
もう慣れてきた。そうだ、ここは、
最初から一人の部屋だった。

一人分の浴槽に湯を張って、

「二人分」と注釈がしてある料理を
分量通りに作り、一食分を保存して
作りおきとしてきたじゃないか。

そのまま立って食べることもある。
女子力ないな〜、と笑われたことを
なんとなく思い出す。

洗い物が済んだなら、今度は歯を
磨いてしまえる。この導線は、
なかなか便利だった。

彼女が出ていってからしばらくは、
扉を開けっ放しにするのが嫌で、
なんとなくしめていた。

最近は一人の部屋に慣れてきた。
もともと私だけの空間だったのに、
他の人がいるとその人のにおいが
部屋に染み付いてしまうんだ。

neil & iraizaでも口ずさんで
窓を開ければ、彼女の気配が、
風に流されていく。

ちょっと暗かった照明を変えて、
少し明るくなって、気分もつられて
明るくなってくる。

きっとなにかいいものが書ける。
うん。無駄なことってなにもない。

家の外を歩けば、もう冬の気配。
春に別れていろいろあったけど、
いい冬になればいいよね。