夏休みの平屋と猫のはなし。
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
朝、散歩してるとよく会う。顔見知りのおじさん。松重豊にちょっと似てる。 「おう、タマ」って呼んでくるけど、僕の名前はタマじゃない。 蝉の声が少なくなってくる夕方。お腹のすくにおいが漂ってくる。おじさんが焼いている魚のにおい。たぶん、鯵。 月が真上に登るころ、反響する鼻歌が聞こえてくる。時々こぶしが入る。なんの曲かはわからない。 縁の下で昼寝してると、頭の上からチョキチョキチョキ…と音が降ってくる。一定のリズム。おじさんが盆栽の剪定をしてる音。 そういえばおじさんって身綺麗。きっと部屋も綺麗なのかと、3秒くらい想像した。 この季節、ここらへんの家から甲子園中継の音が漏れる。 なんだか走り出したくなる音楽と、カキーンって音は、嫌いじゃない。 今日はやけに煙たいにおいがする。 いやだなあと思いながらおじさんちの前を通ったら、ちびっこたちが手持ち花火をしていた。庭に、子供と、親と、おじさん。
花火の燻るにおいと、けむりと、笑い声。
「あ、ネコだ」と花火持ったちびっこが走ってきたらから、全力で逃げた。 昨日の賑わいが消えた庭を、ぼんやり窓から見てるおじさん。
目が合ったら「そろそろ台風が来るから気をつけなさい」と言われた。
文・戸田江美
1991年生まれ。デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e
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