昔、千葉の御宿によく泊りがけで海水浴に行った。
宿で眠っていても海の匂いがするのは不思議だったが、不思議と記憶に残っている。
その記憶が、私にこの家の購入を決意させたのかもしれない。

真っ白の外観は、リゾートホテルですよ、と言えばそれで通じそうだ。

家の目の前に広がるのは砂浜で、夏は熱砂に足を突っ込むのが気持ちいい。
秋から冬にかけては寒々しい空と潮風が吹いてくるけど、私はその光景も愛したいと思った。

向こうに見えている島は能古島と言うらしい。絵心があれば、ここにイーゼルなんて立てて、描き始めるかもしれない。
海に面しているというだけで、なんだか自分がやったことのないことに挑戦したくなるから不思議だ。
冬の間に体を作って、来夏はサーフィンを始めているかもしれない。

そんなことを、冬にはこの窓辺から海を見て考えるのだろう。
さて、なにも夏を待っているのは私と窓辺だけではない。

マンションの中には居住者専用のプールがある。
当たり前だけど、冬にそこに入る人間はいない。

海を見ながらプールに入る、という経験を私はしたことがなかったが、不思議な気分になる。
潮の匂いも、波の音もするのに、今自分が浮かんでいるのは塩水ではなくて塩素消毒されているだろう水。
その不思議さを、来夏味わうのを楽しみにしている。

なにせどこに行っても潮風と波の音。

家の近くから遊歩道が伸びているんだから、公園が私のサードプレイスになるんだろう、と思う。
適当なところに腰掛けてコッペパンなんてかじったりする私が見える。

湯船に湯を貼って浸かりながら、リビングで海の音を聴きながら。
だいたいいつも、心が夏を待っている。