誰にも知られずに、ひっそり次の人生をやり直そう。そう決めた時、木を隠すなら森の中、ということでこの街を選ぶだろう。
都会には疲れたけど、田舎は目立ってしまう。だから、都会でも田舎でもない川崎市に決めたのだ。

8帖のワンルームというのもよかった。自分の管理が完璧に行き届く部屋のほうが良いなって思っていたから。
トイレと湯船が分かれているのも恵まれてると思ってる。

玄関の土間はあんまり散らかさないように、小さなルールを設けた。

ただいま。今日もなんとか終わった…。
玄関の棚の上に鍵を置いて、はあ、とため息一つ。

クローゼットの定位置にカバンをどさっと掛ける。
実家に居た頃はきちんと扉があるものを使っていたけど、オープンだと荷物をさっと放り込めて便利なんだな。

今日は何を作ろうかな。
キッチン広い部屋にして本当によかった！ストレスがたまったときには、やっぱり自炊をするに限る。二口、かつガスコンロなら大体なんでも作れちゃうから。
今日はミートソースでも仕込もうかな。みじん切りの作業、なんだか我を忘れるのにピッタリじゃないですか？って、私は誰に語りかけてるんだか。

このトイレに入って、湯船にお湯を張る音を聴いていると「一人だな」ってぼんやり思う。

こちら側は一面窓。照明がライティングレールで、雰囲気がいいのも好きなんだ。
一人でなんだって出来るよ、どんな部屋でも住んでやるよ、と思っていたのに、結局部屋はこだわってしまった。

共有のテラスがあったりしてね。
ここでふらっと、顔なじみの住人さんに会って一言二言話すだけでもリフレッシュする。

夜の雰囲気がいいんだよ、って皆が教えてくれる。
いいね、ここで一杯だけ飲んで部屋に帰るのも良さそうだ。

外観は古き良きアパート！って感じなんだけどなあ。
住んでみないとわからないもんだね。
駅からの道にはイトーヨーカドーもある。一人でもいいでしょ、この街。