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ぼくが由比ヶ浜通りの不動産屋さんになるまで。

物件ファンは、もちろん不動産屋さんファンです。今回は、鎌倉の由比ヶ浜通りのローカルの不動産屋さん。

設計から仲介、ホステルの運営まで楽しくお仕事されている、エンジョイワークスの福田和則さんとお話してきました。

エンジョイスタイル http://enjoystyles.jp/

ぼくは銀行員だった。

2007年に創業してるんですけど、ちょうどリーマンショックの年なんです。後ろにいる彼と二人で始めたんですけど、ぼくらは銀行のサラリーマンでして。

いわゆる富裕層の方とお話する機会があって、起業家の方も凄く多かったんです。自分たちで事業やりたいって気持ちは当時からあったんですが、正直どの分野がいいかっていう話から始まりました。

不動産と建築というよりも「まちづくり」に関わりたいな、というのがありまして。ただ、当時のぼくらにまずできるのは、いわゆる仲介業というか。そういうところかなあ、というので始めました。

いずれ自分でやりたいなっていう気持ちは持っていて。ただ、銀行はトレーニングをするにはいい環境だったんで、外資で10年ぐらいですかね。やらせていただいて。

大きい会社とか、都会が嫌だとか、そこまでは大きくないんですけどね。当時、娘が生まれるのを機に葉山に引っ越してきて。通勤はしてましたけど、やっぱり住むようになって、いい環境だなと思いました。

コミュニティがすごくいいなって、住んでみて分かって。その街の、何ていうんですかね……いい空間を作るっていうのは自然環境もありますけど、コミュニティによる力っていうのも大きいんだな、というのを改めて実感して。

なんとかお金を作って。

当時出来ることとしては、それこそ銀行のときのネットワークを活かして、リーマンショックの直後なので、傷んでる人も多かったんですよね。不良債権になっちゃってるような物件も沢山あった中で、それを買える方は個人の資産家だったりとか。

あのお客さんは多分傷んでるだろうな、とか(笑)。あそこの物件は不良債権化するよな、とか。そういうもののマッチングでお金を作るしかないかなと。

東京のど真ん中に行くのが嫌だったんで、葉山から車で東京に入ってすぐの、多摩川沿いの玉堤にオフィスを構えました。そこでいっぱいいっぱいだったんです(笑)。

三年……やっていましたね。やっぱり大変で、不動産実務ってやったことなかったので。いわゆる担保評価を銀行内の関係部署で回して、ファイナンス付けるとかはやってたんですけど、取引実務はやってきてなかったんで、手探りでした。

だから、金融商品が不動産に変わっただけの状態だったんですよね。当時は正直、お金作るためにやってたようなものでして。富裕層の個人の方のために何かやりたい気持ちは、もうなくなっていたので。十分って感じだったんですよね。

焼きそばを焼いて。

それに、今このエリアでやりたいようなことを、当時もちょこちょこ始めていたんですが、不動産屋さんと話しても、「何言ってるの?」みたいな感じで。大きい土地を複数の方で共同購入する、みたいな提案もしていたんですが、「無理だよね」と。

コーポラティブハウスみたいに広い土地にいくつか共同で建てるという考え方を話しても、言ってることが分からない。古いお家でも良いものであれば、リノベーションして使えばいいじゃないですか、みたいな話をしても、それはもう危ないから壊して、土地で売るんだよ、とか。そのへんから食い違ってたり。

せっかく不動産屋さんやるんだし、他の業者さんと同じやり方はやりたくない、というのがありました。あえて彼らがやらないことというか、違う発想でアプローチしたいなって気持ちが強かったと思います。

ちょうどその頃、東京で仕事をしながら、こちらの商店街のお祭りの手伝いをよくしてたんですよ。たまたま知り合いがいて、焼きそば焼くのを手伝ったり(笑)。

そうしたら、この由比ヶ浜通りの物件ってあんまり貸してもらえないんですけど、ぼくがこっちで事務所を持ちたい、という話をしたら、お祭りを仕切っておられる方のお母さんが大家さんの同級生とかで、お借りすることができたんです。

お客さんがうれしい。

それでぼくは、鎌倉の不動産屋さんになったんですが、今振り返ると、本当おもしろいんですけど、一ヶ月とかお客さんの問い合わせが普通にないんですよ(笑)。

こっちのエリアの面白い物件を我々の視点で集めて、サイトに掲載してっていうことをやってたんですけど。でね、その一人のお客様からの問い合わせが来ると、嬉しくてしょうがないわけですよ。

だから、その一人のお客さんをとにかくモノにしないと食っていけないわけなんで、打率10割を本気で目指してましたね。

かと言って、やっぱりそこはゴリゴリの、いわゆる何ていうんですかね、お客さんを詰めるような営業は当然したくはなかったですし。なので、どうだったんだろうな。結論出されるのが怖かった、っていうのが本音としてあるかもしれないですけど。

やっぱりお客さんと、ちゃんと分かり合うというか。そういう関係を作ることを考えたと思います。懐かしいですね。

地道だったですね。東京にいたときは「今日は取材の日」みたいな感じだったけど、こっちに来てからは、それしかやることもなかったし、毎日取材に行ってサイトに物件を挙げる、と。それを繰り返したんでしょうね。単純にもう。ただただ。

あの番組の物件で復活?

もうほんとに、銀行の先輩のところに行って、お金を入れてもらいたいという話を、もしかしたら一回したかな?

当時、なんでもやらなきゃいけない状況でしたから、ある時、テレビの方が「こんな物件を捜してる」って言ってきまして。

豪華なお家で、海がバン!って見えて、何十人というテレビのクルーが来られて、みたいな話だったんですが、そんな物件ないだろうな、と思いながらも、とにかく何かで食っていかなきゃいけないんで。

一ヶ月くらいかな、ひとしきり見たけど見つからなくて。そうしたら彼らは彼らで、手当たり次第に豪邸にピンポンしてたんですよ(笑)。嘘でしょ?みたいな。さすがにそれは無理過ぎる、と思って。

そんな話をしてるときに、たまたま、あ、そういえばこの先行ったところに、知り合いのお客さんである会社の社長さんが別荘持ってたな、と思って。

あの別荘、使ってないみたいなことも言ってたし、どうかな、と思って案内したら、テレビの方が「なんでこれ最初に紹介してくれなかったんですか!」みたいな。

ぼくもそれで何年かぶりにその方の携帯を鳴らして。つながらないかなと思ったんですけど、お休みでね、別荘で過ごされてたんで出てくれて。こういう理由でテレビで使いたいって方がいるんですよって。

あ、そうって。「家賃いくら?」とおっしゃるから、「テレビなんでけっこう出すと思います!」みたいな(笑)。

それがあの『テラスハウス』っていう番組の一つめの家なんですよ。今考えると、あの番組のおかげで生き延びたんですよ。

謎のおじさんと家づくり。

でね、ぼくは家づくりをやりたいと思っていたんです。やっぱり「まちづくり」と言った時に、街並みを作っているのは住宅じゃないですか。ただ、家づくりやりたいといっても、ぼくは設計免許がないし。

ちょうどその時、あるおじさんというか、おじいさんと言っていいのかな、との出会いがありまして。ものすごいこだわりで家づくりをされてる方だったんですね。

それが、建築士じゃないんですよ。その人も。ただのおじさんが「いい家を作る!」と言って会社を始められたんです。葉山に住んでいる方で、たまたま彼が建てたお家に、うちがお客さんを付けたんですね。

お客さんもたまたま、有名な作家さんで。そこから、そのおじさんと意気投合して、いい家談義をね……ちょこちょこ会うたびする感じかな、と思ったら、全然そうではなくてですね(笑)。

毎日電話かかってくるんですよ。「今、こういうの作ってるんだけど!」って。「見に来ないか?」とか。あれは、当時の社員は覚えてますよね、あの着信音。

ほんと、研究家肌な方で。貴重な機会でした。夕方までひとしきりやるわけですよ。すっごい細かくて。サッシ一つとっても、1円でも安く、みたいな話をするんです。

夕方までやるとですね、大体「そろそろ飯行くか」ってなるんですよ。「はい!」って。飲むのも好きな人なんで、飲みながらまた「いい家とは?」という話を……。

結局、ぼくらの会社と一緒に家づくりをすることにはならなかったですが、学ぶものはすごくありました。じつは後になって、もともと大企業のトップだった人だというのが分かったんです(笑)。

スケルトンハウス。

日本の住宅ってけっこうスクラップ・アンド・ビルドなんで、長く使われないっていうのはおかしいというか、もったいないよね、と思っていました。

じゃあ、どうやったら長く使ってもらえるのか、みたいなことから「スケルトンハウス」のコンセプトが生まれたんですね。

スケルトンの箱を作って、インフィルを入れ替えられる、という考え方。これってじつは、コーポラティブハウスと同じなんですよね。皆で共同住宅の箱を作って、個々の部屋はお客さんが自由に作るので。

インフィルを入れて、また元に戻せるという可変性。これが重要なんです。長く使うのもそうですし、当然自由である方がいいし。家づくりって、かかるお金と労力が、なかなかのものじゃないですか。

それに対してやっぱり、施主さんご本人がしっかりコミットするような仕組みであるべきだと思っていたんです。家を提供してるっていうよりは家づくりを提供している感覚で、ご自身で間取りを描いていただいたり、模型を一緒に作ったり。

「家づくりノート」というのを最初に書いていただくんですが、間取りだったり、けっこう書く欄がたくさんあるんですね。

「あれ…?階段がつながってない…」みたいなことも、よくある話なんですよ。旦那さんとかね、完全に放棄してたりね。奥さんが一生懸命書いてることが多いかな。

スケルトンハウスの紹介。 下は、施主さんが描いた間取り図。

ジブンゴトに。

「ジブンゴト」と言ってるんですが、住む人の主体性を大事にしたいんです。家を買ったり、不動産を探すことが、不動産業者からの一方的な情報提供で言われるがままに進むことが多いじゃないですか。

それは、ぼくらの経験不足でもあると思うんですけど、もうちょっとやっぱり、消費者の方もよく勉強して、ジブンゴトとして捉えていただいたほうが、この業界も良くなっていくんじゃないか、と。そういうメッセージもあるんです。

たとえば、このエリアの街並みを良くしたい、と思った時に、一企業が継続してふえていく人々を相手にやり続けるのってムリじゃないですか。思想というと言いすぎかもしれないですけど、やっぱりそういうものをお伝えしていきたい。

HOUSE YUIGAHAMA 自分らしい空間作りのためのカフェ。

エリアをサポートして。

家づくりから始まる。その考え方は、ぼくらの会社のベースになっているところでして、うちがカフェやゲストハウスをやってるのも、あれをチェーン化して稼いでいこうという気は全然なくてですね。

ゲストハウスを通じて街とどういう風に付き合っていくか。どういうコミュニティが出来るといい影響があるのか。そういうものを伝えていければいいかなと。とはいえ採算は気になるんですけども(笑)。

基本はそういうことですね。このエリアの皆さんに主体的にやっていただくために、ぼくたちはサポートに徹するってことを常に考えているんです。

ハロー!リノベーションという試み。

ハロー! RENOVATION 空き家や遊休不動産を再生。

同じようなアプローチを空き家に対してできないかな、というのが「ハロー!リノベーション」というサービスでして。

「空き家を再生しないか」という時に、当然チャレンジする人がいるんですが、お金がかかることでもあるので、そこをマッチングして、資金調達を上手く達成する、というのが黒子としてのテーマです。

「お店を始めたい」って来られる方は多くて、そのお店でやろうとされているコンセプト自体は面白いんですけど、どうやってそれを成立させるか……計画ですよね。収支ですとか、その辺がやっぱり弱い、そういう方はたくさん見てきたので。

でも、彼らがそれをなんとかクリアして、すごいおしゃれなホテルができたり、かわいい古民家カフェができたら、やっぱりよかったなって。それで街が良くなってるわけじゃないですか。

クラウドファンディングも、当初は寄付型からスタートしますが、いわゆる投資型もやりたいです。そうすると免許関係を整えなきゃいけませんので、ちょっと時間もかかってくるんですが、まずは、その目標でやりたいな、と思っています。

Hostel YUIGAHAMA + SOBA BAR 山形そばと日本酒のバーを併設したホステルも運営されています。

葉山、由比ヶ浜。

ぼくや社員もサーフィンやったりするんですが、このエリアの方々って、それにかぎらず自然とのバランスを意識している、というのがあると思うんですよね。

なんかね、大きな言い方をすると「自分の人生を、きちんと自分でコントロールしたい」って方が多いと思うんです。

なんとなく会社から近いところに住んだほうが楽だから、とか、会社に言われたからどうとか、そういう感じではなくて。

自分としてはこういうことを大事にしてるからこのエリアに住むとか、こういう時間の使い方をしたいからとか、きちんと自然と向き合う時間をとるとか……そういうことを自分の中に持っている、そういう人が多いように思います。

不動産業者から言われるままに大切な買い物をしたり、街の一員になるのにまあよくある建売を買ったり、「それでいいんですか?」って聞かれた時に、いや、ちがいますよね、っていう。

しっかり自分で考えて、主体的にやりたいと言ってくれる方が多いんで、うちのサービスとの相性は良いと思っているんです。

福田 和則(ふくだ かずのり)

1974年兵庫県生まれ。外資系金融機関勤務を経て、2007年株式会社エンジョイワークスを設立。

行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイル実現をテーマに不動産及び建築分野において事業展開を行う。

エンジョイスタイル。

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