京都の五大花街のひとつ、宮川町。 石畳の道に足を踏み入れると、 美しいお茶屋や割烹が建ち並び 風情溢れる景観が 今もなお息づいています。

そんな宮川町の路地裏に ひっそりと佇む一軒の京町家。

室内に入ると スッと背筋が伸びるような 美意識を感じられる空間が 広がっています。

『京町家の元々の姿や 情緒を大切に受け継ぐこと』 をコンセプトに リノベーションされたそう。

外観は、 路地に並ぶ町家たちと意匠を合わせて 風格ある出格子が造作されています。

しっとりとした墨色が 美しい佇まい。

リノベーション前は、 出格子が無かったのだそう。

おそらく建物自体に元々は 京町家ならではの 出格子があったようですが、 その部分に増築と造作が おこなわれていたそうです。

そこで、今回のリノベーションで 再び出格子を造作したというわけです。

京町家特有の良さを残し、 周囲の町家たちと馴染むように。 こだわりが伝わってきて より一層惹かれますね。

内部は、『一列三室型』と呼ばれる 京町家に多い空間構成が 再現されています。

写真手前から リビング、ダイニング、ミセノマと 一列に３室が連なっています。

リビング、ダイニング間の 仕切りが取り払われていることで 奥行きを感じられ 心地よい開放感が漂う空間に なっていますね。

もしかして元は、 玄関からキッチンまでが 土間だったのでは ないでしょうか。 京町家でよく見かける 『通り庭』などと呼ばれる部分です。

いつかの姿を想像しながら この洗練された空間を見ていると タイムトリップしているような 心地になります。

落ち着いた色合いの木目キッチンと 白いタイルの風合いも素敵。

キッチンはIHコンロと食洗機つきで 作業スペースも広々としており お料理もしやすそう。 キッチンとダイニングには 冬にも暖かさを保つ 床暖房が設置されています。

品のある造作収納棚には、 家電用の電源がきちんと備えられています。

キッチンの正面には、 先ほど見た、畳敷きのリビング。

外が眺めやすいよう 上半分が障子、 下半分にガラスがはめ込まれた 雪見障子が取り付けられています。

障子は左手の壁の外に引き込めるので、 開放的に外を眺めるかたちにも できるそう。

和室はより一層 陰影が美しく映えるように感じます。 懐かしい照明も相まって 旅先に来たような心地に。

雪見障子の先には、 リノベーションによって再生された 縁側と庭があります。

透明ガラスのフィラメント照明が 備え付けられており、 懐かしくも現代らしい装いに。

風鈴を吊るして 縁側で水羊羹を食べたりして。 時間を忘れてここでぼんやりと 過ごしてみたいものです。

天井は葦で作られていて 涼やかな風情を醸し出していますね。

畳敷きのダイニングと反対側、 外の通りに面した部屋は 『ミセノマ』と呼ばれる 町家特有の部屋です。

広さは３帖ほど。 来客用の部屋や 書斎、子ども部屋などに いかがでしょうか。

特筆すべきは、 ミセノマとダイニングを仕切る ガラス入りの古建具。 微かに揺れる特有の質感に、 職人の手仕事の息吹を感じます。

ミセノマからひょいと降りると 玄関の土間たたき。 靴箱の足元が浮いているため 抜け感もあります。

石のあしらいがかわいらしく、 陽をやわらかに受け止める 独特な味わいのある質感に 心落ち着きます。

蕾のような意匠の 懐かしいガラスの照明も やさしげでかわいらしいですね。

さて、それでは ２階を見てみましょう。

２階には洋室が２部屋。 元々は２枚組だった 『舞良戸』と呼ばれる戸が それぞれの部屋の入り口に 設えられています。

経年の深みと 帯のデザインがなんとも風流です。

窓から差し込む明るい光が 室内をやわらかく包みこむ 南側の洋室。

伸びやかな勾配天井と、 木の匂いが漂ってきそうな無垢床。 やさしい木の色で包まれた、 落ち着いた色合いの部屋。

写真を見ているだけでも 居心地の良さが伝わってきます。

梁と収納扉枠の黒色が アクセントの色になっていて、 なんてハイセンスなの…！

バルコニーは木調の目隠しもあり プライベート感が保たれています。 干した洗濯物を取り込んだら ちょっとここでひと休憩もしてみたい。

もうひと部屋の方は より大胆に梁が現れています。

建具の色も濃く、 南側の部屋よりも かっこいい雰囲気の印象。 こちらも好きだなあ…

寝室にして、 プライベートサロンのような リラックス空間を作り上げてみたいです。 起きたら素足に感じる 無垢床のやわらかさなんて 想像しただけでも、最高。

こちらの京町家、 立地は京都の中心部となります。

祇園四条駅へは徒歩9分、 清水五条駅へは徒歩5分。

さらに京都一の繁華街 四条河原町までは歩いて13分。

家の周囲には建仁寺や六波羅蜜寺、 ゑびす神社、鴨川といった名所が。

京都の歴史文化に日々触れられるし 利便性もあるという 理想的な生活エリアです。

こんなお家、こんな立地で 暮らしてみたいなあ...

静かに品格をたたえたリノベーション。 古きを愛でながらも、 新しい風を受け入れる 心地良さを感じました。

文・戸田江美

デザイナー。おばあちゃんの仕事を継いで荒川区のマンションの大家をしている。落語が好き。@530e

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