言わずと知れた世界的な 建築家・安藤忠雄氏。 公共建築や商業施設なども 数多く手がけているので その建築を体験されたことのある方も 多いかもしれませんが、 実際に住んだことのある方は ほとんどいないのではないでしょうか。

もともとは施主夫婦と その長男・次男夫婦の3世帯が住まう 住宅として設計されたこちらの建物。 そのうち、広い中庭のある地階のお部屋が 賃貸物件として募集中です。 これは興味のある方には 大チャンスなのでは…。

竣工は1984年ですので、時期的には 六甲の集合住宅の1期計画の少し後。 初期の住宅作品にあたります。

高い塀でコンクリートの塀で 外部から切り取られた空間は、 背筋がピンと伸びるような 感覚もありますね。

3層それぞれに各世帯を 割り振る代わりに、 屋外空間を共有の空間とした 贅沢な構成となっています。 中庭から2階の屋上緑化、 3階のバルコニーへと流れるような 屋外空間の連続も見どころ。

今回ご紹介のお部屋は その１階の部分のお部屋です。 お部屋へは右手の階段を下りて アプローチします。

玄関を入ると広がるこちらの空間。 安藤氏の建築の特徴の一つでもある コントロールされた 自然光が差し込みます。 刻一刻と変わるその表情を 眺めているだけでも 何時間も過ごせてしまいそう。

そして凹凸のないつややかな コンクリートの表情。 お気づきの方もいるかもしれませんが、 このエリアは天井にも壁にも 照明器具が一つもありません。 それでもここまで明るい空間に なっているのは驚きですし、 だからこそここまで美しい空間に なっているのだと思います。

木製のボックスに納められていたのは こちらのキッチン。 お部屋のテイストにピッタリ合った ものが選定されていますね。 キッチンのほか、設備関係の交換、 建物全体の洗浄や防水などの メンテナンスも行われているのですが、 それらも安藤忠雄建築研究所の ご協力を得て行われたそうです。 オーナーさんの作品に対する 強いリスペクトが感じられますね。

キッチンを挟んだ反対側の スペースの窓は、道路側ということも あって不透明のガラスになっています。 壁一面が照明器具のようになって、 やわらかな光が室内を満たします。

中庭からのエントランスの他に、 先ほどの道路側不透明ガラスの部分、 そして北西側にもそれぞれ勝手口が あり、室内だけでなく屋外の空間を 介して回遊できる動線を有しています。 こちらの物件は住宅としてだけでなく、 SOHOとしての利用もできるので、 複数の出入口があるのは ありがたいですね。

こちらの洋室は、住宅としてなら寝室に、 SOHOとしてなら仕事部屋にも ちょうど良いサイズ感。

リビングルームへ直接抜ける動線も あり、室内の回遊性も高いですね。 行き止まりのない動線と、 中庭への視線の抜けが、 実際の広さ以上の空間の拡がりを 与えているように感じます。

廊下に並んだ水回りもこのとおり、

オリジナルの部分を尊重しながら、 機能面でも十分に満足できる ものへと生まれ変わっています。

最寄りの生駒駅からは 大阪難波駅まで乗り換えなしで20分、 京都（近鉄丹波橋駅）まで約40分と アクセスも抜群。 関西には数多くの安藤建築が ありますので、自分の家と比べながら 建築をめぐる、なんていう 贅沢な遊びもできちゃいますね。

巨匠の設計した住宅に住むというのは、 きっと人生において貴重な 財産になるはずです。 図面や写真だけではわからない体験を ぜひ。

文・佐藤シュン 浜松で設計事務所をやりながら、黒猫と暮らしています。