ガラスの向こう、彼女の背中に「ただいま」を。
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
視界が抜けている
ガラスの間仕切りの向こうに、
今日も彼女の背中が見える。
3帖の洋室の中が、
仕事中の彼女の定位置。
扉を開けてリビングとつなげれば
広い空間で仕事ができるのに、
「これくらいが落ち着く」らしい。
ガラスの向こう側にいる背中が、
たまに知らない人みたいに見える。
こちら側に戻ってきてほしくて、
部屋に帰ってくるたびについ
仕切りをそっと開けてしまう。
「……ただいまぁ」と声をかければ、
くるりとこちらを向いて
「ん、おかえり」と彼女が微笑む。
その声と笑顔を受け取って、
やっと心がほぐれていく。
それでも、できればこれからも 「この生活が続けばいいなぁ」。
私の言葉に、彼女が答える。 「うん、続けていくつもりだよ」。
文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana