私が私らしくなるための 私好みの部屋を見つけた。

あいつと別れて、 3年一緒に住んだ部屋を出て、 思えば初めての、一人暮らし。

パテ跡が残るコンクリート壁に 足場板の床材。 武骨で倉庫風だけど このクールな感じが 私はたまらなく、好きなんだ。

あいつはこんな部屋 絶対に選ばないだろうな。

前の部屋を二人で捜した時だって、 広くてインダストリアルな内装の いい部屋があったのに、 あいつが 「倉庫みたいなのは嫌だ」っていうから 私が仕方なく、譲ったんだっけ。

でも、これからは このワンルームが私のお城。 私のやることに ケチをつけるヤツは、もういない。 メイクもファッションもインテリアも 私の好きなように自由気ままに 目いっぱい、楽しんでやる。

家具はミッドセンチュリーなテイストにして、 でも、ソファはヴィンテージ感のある レザーのものがいいな。 差し色にヴィヴィッドな赤色の クッションを置いたりして。

シンプルでミニマルなキッチンも私好み。 一人分を作るのに 使い勝手の良さそうなつくり。

サニタリールームはトイレと脱衣所を ひとまとめにしてある分、 広さがあって、嬉しい。

お風呂も足を伸ばして ゆったりと浸かれる湯船だから、 あいつが苦手だった ユーカリの香りの入浴剤を買って 心ゆくまで長風呂しよう。

床材は一度白塗装して、 拭き取りを行った足場板だそうで、 武骨だけど清潔感があるのが とてもいい。

前の部屋よりも少し高い天井には 換気扇のダクトや配管がむき出しになっている。 ペンダントライトと相まって 痺れるような、かっこよさ。

このかっこよさを わかってくれない人を 私はどうして好きだったのかな、と いまとなっては不思議に思う。

帰ってきて 「おかえり」を言ってくれる人は いないけど、 この部屋に住めば、一人でも きっと平気。 電車のアクセスが便利なのに 神社や学校が多くて 治安もいいし。 最寄り駅の雑司が谷駅には 歩いて2分だから、 朝が苦手な私でも大丈夫。 それに、なんといっても

私好みの内装の 私が選んだ物に囲まれて暮らす。 それだけで、 力がみなぎるだろうから。

私が私らしくなるための とっておきの部屋を 私は見つけたんだ。

文・葱山紫蘇子 劇団維新派→色々→介護業を経験。漫画と建物と書き出し小説が好きな4人の子を持つ大阪のシングルマザー。 @sisokoex