とことこ、とことこ。 お部屋から飛び出して、 大冒険のおさんぽだ！ おさんぽの途中で いつも渡るこの橋が、 ぼくとあの子のお気に入り。

橋を渡るたびに、あの子は 「気持ちいいねぇ」と笑う。 さわさわと揺れる葉っぱの音、 橋の下を流れるせせらぎ、 鼻をくすぐる風や緑のにおい。 ぼくは耳や鼻やしっぽを ふんふんと動かしながら、 あの子にそうだねと伝える。

ピンク色の花が咲くと、 あの子はさらにうれしそう。 「きれい！」とあの子が 楽しそうにはしゃぐから、 ぼくも思わずルンルンになる。

「そろそろ帰ろうか」と お部屋に向かう瞬間は、 ちょっぴり苦手だ。 もっと遊んでいたいと ぐんと力を入れてみるけど、 「帰ったらおやつだよ」と あの子が言うから。 仕方ないなぁと思いながら また橋を渡ってあげる。

お部屋に帰る途中で、 たまにあの子は誰かと話してる。 なぜかぼくに向かって 「かわいいワンちゃん！」と 言ってくる人もいるけど、 ぼくはワンちゃんじゃないよ。 あの子がくれた名前があるもの。

玄関まで来たら、 足をきれいにしないとね。 知ってるよ、あの子がいつも 足をやさしく拭いてくれるから。

たまに地面がどろんこの日に おさんぽから帰ってくると、 あの子は「お湯で洗おっか」と ひょいとぼくを持ち上げて 足をきれいにしてくれる。 それだけならね、いいよ、 足だけならぼくだって別に…

「今日はたくさん汚れたから、 これはお風呂かな！」と あの子が言ったら大ピンチ。 お風呂は、お風呂は、 実はあんまり得意じゃない。 はやく終わりますように、と 心の中で願うばかりなのです。

おさんぽから帰ったし、 お風呂だってがんばったし、 そろそろおやつの時間かも！ 上の棚におやつがあること、 ぼくはちゃんと知っているのだ。

キッチンに立つあの子の 足元でおやつをガジガジ。 しばらくすると いいにおいがしてくるけど、 「これは人間の食べ物」と あの子は食べさせてくれない。

完成したものをいそいそと テーブルに運んで、あの子は とってもおいしそうに食べる。 少しだけちょうだいな、と ふんふんとアピールするも やっぱり「これはだめだよ」。

ちぇ、と思いながら 隣のお部屋でふて寝していると、 食べ終わったらしいあの子が ぼくの近くに来る気配。

カラカラと窓を開けて、 「いい風だねぇ」とあの子は言う。 しっぽをパタンと揺らして、 ほんとうだねぇとお返事する。

お天気はいいし、 風も気持ちいいし、 もう一度おさんぽしよっか？ あの子に瞳でテレパシー。 またあの橋を、 ふたりで一緒に渡ろうよ。

ふたりでたくさん歩いたら、 もっともっと楽しいことを たくさん見つけられると思うな。 行こう行こう、おさんぽ行こう。 あの子の周りをクルクルと 走り回っていたら、少しだけ 困ったようにあの子が笑う。 「お外、行こっか？」 そうそう、そう来なくっちゃ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana