葡萄だけじゃないんです。 いちじく、ざくろ、レモン、 びわ、ジャスミン、ローズマリー…。 四季折々に楽しめる果樹と草花が 前庭で「おかえり」と迎えてくれる。

優しい緑のアプローチの奥には 大事に大事に住み継がれてきた 素敵なお家があるのです。

昭和30年に、 家主である建築士自ら設計した一軒家。

アプローチを抜けて、 扉を開けると 小さいタイルのタタキ。 ああいいな。 初めて見るのに、 「ただいま」って言いたくなる。

靴箱の上の木枠の小窓も、 しゃれている。 きらきらのすりガラスがかわいいな。

すっと伸びた廊下の先には台所が見えます。 ここは“キッチン”じゃなくて あえて“台所”と呼びましょう。

年月と共に、 飴色に変わったのであろう 廊下をすすむと…

レトロでモダンな台所が 待ち構えていました。 うわー！素敵だ！

白いタイルで作られた、 ガスコンロが置ける作業台。 その下には 使い込まれた栗皮色の引き出し戸棚。 時代を超えた家ならではの 勝手口や窓の木枠や、 作り付け棚も言わずもがなですが、 どれもレトロでとても素敵です。

懐かしさいっぱいで丁寧な造作を見ると、 胸がキュンとなり、 愛おしさを感じるのは、私だけでしょうか。

平成29年にリフォームされて、 新しくなったシンク台。 まだ若々しい木の扉は、 暮らしとともに使い込まれ、 いい塩梅になっていくことでしょう。

建具にすっぽり収まる収納棚も良いです。 シンプルなデザインに、この大きさ。 大きな皿もたくさん入りそうで、頼もしい。

ご飯は和室で食べましょうか。 大皿料理を並べて、みんなでわいわいと。

居間には掘り込みコタツがあるとのこと。 やっぱり、大きめの座卓と 座椅子がしっくり来るのかな。 あ、でも、壁際にローソファーを置いても 意外と合うかもしれない。

1階の、もうひと部屋は洋室です。 違い棚がほんのりと 和の趣をかもしだし、 和洋折衷になっています。

これはアール・デコ様式になるのかな？ 直線で構成された折り上げ天井が美しい。

葡萄棚のある前庭に面してるんですね。 お庭から直接入ることもできるから、 お客様を気軽に呼べそう。 習い事の教室なんかにも 良さそうなお部屋です。

サッシの多くはリフォームされていますが、 台所と同じく、ここにも木枠の窓が。 金具も時代を感じさせて 味があります。

リビング、応接間、お教室…。 どれにするのが正解なんだろう。 だけど、 まずは、床にごろんと寝転んで 風で揺れる前庭の草花を のんびり眺めるのも一興です。

トントンと、 回り階段をあがって2階へ。

階段そばのお部屋は 大胆な木目模様の壁で 昭和のたたずまい。 階段の上部分が段々になっていて ちょっとした飾り棚になっているのも 遊び心があっていいですね。

窓際に机を置いて 勉強部屋や書斎にするのに ちょうど良さそうなお部屋。

2階の廊下も 昭和感があふれていて、とても好き。

南東側の洋室はベランダと窓の 2面採光でとても明るく、

作り付けのクローゼットがあります。 落ち着いた雰囲気の木目柄で ほっとします。

北側のお部屋にも

懐かしさを感じる、 昭和型板ガラスが。 ランダムに踊るような四角模様が かわいくって仕方ありません。

懐かしさはベランダにも。

この木製扉の懐古感たるや！

開くと木製の網戸も健在です。 出入りするたびに、 ノスタルジックな思いにかられそうですね。

そこかしこに郷愁が漂うこちらの物件。 梅田から電車で10分、三宮へも25分と たたずまいとは予想外のアクセスの良さ。 閑静な住宅街ですが、 昔ながらの個人店も並ぶ、魅力ある街です。

掲載元の神戸R不動産さんによると、 建築士だった家主の ご家族である現オーナーさんは 「解体して土地として売るのは簡単だけど、 ここには大切な思い出が詰まっている。 この建物を気に入って 住んでいただける人に引き継ぎたい。」 とのこと。

この家をいつくしみ、 これからも住み継いでくれる方を、 葡萄棚が「おかえり」と 待ってくれています。

文・葱山紫蘇子 劇団維新派→色々→介護業を経験。漫画と建物と書き出し小説が好きな4人の子を持つ大阪のシングルマザー。 @sisokoex