ひとりで見るこの景色も なかなかいいなと思うけど、 やっぱり一緒に見るほうがいい。 「きれいだねぇ」の彼女の声に、 「そうだね」と返したいから。

芸術的なうろこ模様の ヴィンテージマンション。 「公園の大きな池が、 共用廊下から見えちゃうの！」 そうはしゃぎながら物件情報を 見せてきたのは彼女のほう。

「池から飛び出てきた竜が、 うろこを落としていったみたい」 キラキラの瞳で彼女は言う。 そんなわけないとは言わない、 そうだったらいいと思うから。

食べるのも眠るのも、 自然とふたりで一緒に。 ひとりではおっくうな 生きるためのあれこれが、 彼女がいると変化していく。 楽しいものに、うれしいものに。

17.7帖のLDKには、 彼女が悩みながら 選び抜いた家具が置かれた。 ダイニングセットと 大きなソファを置いても、 ふたりでのびのび過ごせている。

やわらかい部屋の雰囲気は、 なんだか彼女に似ている。 陽だまりの中にいるようで、 閉じていたはずの気持ちも 不思議とほぐれていく。

「ご飯食べよう」も 「そろそろ寝よう」も、 私に向けられた言葉だと 実感するたびくすぐったい。 これからもたくさん言って。

「バルコニーにも うろこ、見っけ！」

「……ここまで竜が 空を泳いできたのかも」 真面目な顔でそう返したら、 きょとんとした表情のあと はじけたように彼女が笑った。

4.7帖の洋室には、 ぴたりと壁に寄せて ベッドがひとつ。 こじんまりした空間が、 深い眠りに誘ってくれる。

お風呂はそこまで 好きじゃないけど、 入らないと怒られるから しぶしぶアーチを通り抜ける。

「入ったら気持ちいいでしょ」 「入るまでが面倒なの」 何回も繰り返される、 バスタイムのふたりの会話。

トイレは、面倒でも よっこいせとひとりで入る。

透き通る水の色、 みずみずしい緑の色。 何度でも、何度だって。 「きれいだねぇ」を聞いて、 「そうだね」を返していきたい。 これからもずっと。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana