何度も重ね塗りしたような 深いネイビーの壁。 ひとり壁ぎわに佇めば エドワード・ホッパーが描いた絵のよう。 昔、鉄工所の社宅だった 集合住宅のひとへやを、 現代美術アーティストの松延総司さんが デザイン、リノベーションしました。

ここは大阪市住之江区北加賀谷。 美術家・森村泰昌の モリムラ＠ミュージアム（M@M）や、 築60年の文化住宅をリノベーションした 複合施設・千鳥文化など、 アートスポットが数多く集まるエリアです。

海に近いこの地区は、 かつては造船所が多く 栄えていましたが、 時代の移ろいとともに 活気が失われつつありました。 しかし2005年、 造船所跡地にアート複合施設の クリエイティブセンター大阪 （略称C.C.O）が完成。 さらに2009年には、 空き家や工場跡を活用する 北加賀谷クリエイティブ・ビレッジ構想が スタートし、 今では“アートの街”として 広く知られるまでに。 今回紹介する 集合住宅APartMENTも そのプロジェクトのひとつです。　

高度経済成長期を 感じさせる3Kという間取り。 あら、畳のお部屋が つながっているんですね。

なるほど、 6畳だけど広く感じる。 バルコニーと隣のお部屋への 通路があるおかげで抜け感があるんだ。 ん？壁にあるのは…？

飾られているのは 壁にクロスとして使われた 紙やすりの廃材。

押し入れの襖にも、

部屋のすみに置いてある パーテーションにも 紙やすりが使われています。

よく見ると、ところどころ 小さな傷など前の住人の方が 残した暮らしのあとが 残っているようですが

普通の賃貸物件なら 消されてしまう壁の傷が 次の住人へ受け継がれるなんて、 面白いし、なぜか少しほっとする。

新しい服よりも 着こまれた古着の方が落ち着く。

そんな感覚でしょうか。

そうそう、さっきから 気になってたんですが むき出しのパイプたち。 無骨なガジェット感が たまらなく好きです。 うん、これはいい配管。

バルコニーに出られるキッチンは ポイント高いです。 すりガラスで明るいのもいいですね。 キッチンのシンク台の扉にも 紙やすりが使われている。 タイルのカーキ色とマッチしていて、 アースカラーのキッチン、いいな。

トイレの配管もよしよし。

愛おしや、三角スペース。 鋭角の部分にこれでもかと ぎゅうぎゅうに詰め込んで スキマ収納にするか 入浴グッズを飾るスペースにするか…。 心弾む悩みです。

バスルームは コンパクトでキュート。 シャワールームづかいもいいけど たまにはお湯につかりたい そんなわがままに応えます。

こちらの扉の向こうが、 はじめに紹介したネイビーのお部屋。

小さい窓がちょこん。 3畳という大きさが 秘密のお部屋というにふさわしい。 使い込まれてエイジングが進んだ壁は 考え事をする時間を ふところ深く包み込んでくれる気がします。

この壁にもたれて立ってみる。 自分も絵の中にいるような錯覚。 きっと楽しい。

外に戻って エントランス、 お、かっこいい。

１階共用部も 取りこぼすことなく 優れたデザイン。

共用のミニキッチンと、 なんとランドリーコーナーが。 お部屋のベランダにも 洗濯機は置けなくもないのですが、 初めのうちはここで充分かも。

目の前には「みんなのうえん」という これも 北加賀谷クリエイティブ・ビレッジ構想の ひとつで、 参加型のコミュニティファームがあります。

創造のアイデアが たくさんひらめきそうなこちらのお部屋は クリエーターの方には もちろんおすすめのなんですが 私は観る方専門で…とか アートなんて全然わかんないし… という方にもおすすめしたい。

雨上がり、長靴を履いて 子どものように 水溜りをバシャバシャして 散歩がてら ちょっとそこのギャラリーをのぞきに。

普段着でひょいと芸術が楽しめる そんな街と部屋だと思うのです。

参考サイト クリエイティブセンター大阪（C.C.O） 大阪観光局公式サイト APartMENT モリムラ@ミュージアム（M@M） 千鳥文化 みんなのうえん

文・葱山紫蘇子 劇団維新派→色々→介護業を経験。漫画と建物と書き出し小説が好きな4人の子を持つ大阪のシングルマザー。 @sisokoex