懐かしい団地で、「これから」を夢見る。
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「私の部屋で一緒に暮らす?」 彼女からの言葉を そこまで噛み砕かずに 「うん」とだけ返してから、 もうずいぶん月日が経った。 ふわりと届く畳のかおりに 心までからめとられて、 もうどこにも行けそうにない。 約6帖の和室と、約4帖の和室。 もともとは彼女の家だから 大きいほうを使うだろうと 思っていたけれど、 「押入れが広いほうがいいの」と 6帖の和室をゆずってくれた。 「服がたくさんあるし、 床の間も気に入ってるから」 奥行きのある押入れに、 大量の彼女の服がすっぽりと。
床の間にも飾られたバッグや アクセサリーを見て、 なるほどこのスペースは 彼女だけのものだなと思った。 私がやってくるまでは ふすまを取り外して ゆったり過ごしていたのに、 きちんとはめ直してくれて。 いいのかな、ここまで いろいろやってもらって。 不安が忍び寄ってきたとき、 見抜かれたのか彼女が言った。 「うれしいね、一緒に暮らせて」 そうだね、をうまく言えず、 ただこくんと頷いた。 「キッチン」よりは 「台所」と呼びたいそこで、 昨日は彼女、今日は私、 たまにはふたりで料理する。 彼女が使っていた 小さなテーブルで 食べることもあるけれど、 だいたいは料理を持って ふたりでとことこ移動して… サンルームに用意した ふたり用のテーブルに、 完成した料理を並べる。 のびのび過ごせる広さで、 光もたっぷり入ってきて。 「ピクニックみたいだね」と うれしそうに彼女は言う。 窓を開けるとふわりと 風がふたりを撫でて、 部屋の奥へと流れていく。 洗濯をした日には、 干されている服たちを 風がぱたりぱたりと揺らす。 干す場所と洗濯機が近いと、 水を吸った衣類をえいしょと 運ばなくていいから楽だ。 どうやって使うのか 戸惑ったバランス釜も、 今となっては慣れたもの。 カチ、チチチ、ボッ。 一連の音を聞くのも好き。 トイレはひんやりのまま 彼女が使っていたから、 そっとカバーをつけてあげた。 「すごい、冷たくない」と 目をキラキラさせる姿に 思わず吹き出す。そうだね。 建物ができてから ずいぶん経っているから、 建て替えも検討中らしい。 「もし建て替えるなら、 ここからは出ていかなきゃね」と、 少し残念そうに彼女は言う。 でもね、私は、 もしもそうなったら いいタイミングかもと思う。 なあなあにして彼女に 聞けていないこと、 そのときがもしきたら 言葉にできるかもしれない。
「私たち、これからどうする?」
文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana
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