わたしはとても身軽だから、 階段だってなんのその。 トントンとリズミカルに 上へ下へと移動する。

そんなわたしを見て、 あの人はやさしそうに いつも目を細める。

上にいても、下にいても、 どこにいてもわたしの自由。 「猫は気まぐれだからなぁ」と、 このまえあの人が言っていた。 どうやらわたしは猫らしい。

あの人は毎日扉の向こうに 消えて、そして戻ってくる。 扉の向こうが気になるけれど、 あの人が柵をつけてしまった。 「外に飛び出さないように」と わたしを撫でるあの人の手。

まぁ、いいか。 あの扉の向こうに もちろん興味はあるけれど、 この手のひらは気持ちいい。 それでよしとしてあげる。

あの人がいないうちに いつもおいしいものを 探そうとするけれど、 まだうまくいったことはない。

あの人がキッチンと呼ぶ あそこらへんに、 きっとある気がするのに。

仕方がないから、 あの人がキッチンで ごそごそしているときに 足元で「にゃあ」とひとなき。

「これは人間のごはんだよ」と 困ったように言うけれど、 そんなことは知らないから はやくちょうだいとまたなく。 「にゃあ、にゃあ、にゃあ」

おなかが満足したら、 上に行ってまったりと。

たまにそのまま 階段で眠ることもある。 わたしの体を慎重に またぐあの人が なんだかおもしろくて、 起きていてもどかない。

上はとっても 日当たりがいいから、 ついウトウトしてしまう。

コンパクトなベッドの 真ん中がわたしの定位置。 たまにあの人も眠そうな顔で ベッドにスススと入ってくる。 ちょっとせまいと思うけど、 わたしはやさしいから 別に追い出しはしない。

上にちょこんと 浮いているライトに 一度は触ってみたいけど まだむりだ、でもいつか。 未来を夢見てジャンプする。

あの人は飽きずに 毎日お湯を浴びる。 よくやる、と わたしは呆れるけど、 お湯と遊ぶあの人は なんだかゆるんだ表情。

少しだけ腹が立つから、 はやく出てきてよと たまに「にゃー」と催促する。

ときどき部屋のどこにも いないと思ったら、 あの人はこの部屋にいる。 なにをしているのか 知らないけれど、 撫でてほしいときに そばにいないのはいや。

わたしが望むときは ちゃんとそばにいて、 その手のひらで撫でて。 気分じゃないときは 構わないで、寄らないで。

「猫は自由でいいなぁ」と、 あの人はつぶやく。 あぁ、また忘れていた。 どうやらわたしは猫らしい。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana