婚約した彼と そろそろ一緒に住もうということになり 内覧を続けて数か月。

「いいとこあったよ」 と彼が言うので 早速見に来たこのお部屋は いわゆる、ヴィンテージマンションという やつらしい。

レンガの入口が 確かにレトロな雰囲気。

周りの緑と 白い外壁のコントラストが美しい。

外観だけで十分に 心が惹かれていたけれど 部屋の中は更に素敵で、 だけど、ずっと前から 住んでいたような気がするくらい 落ち着く空間だった。

廊下にあたるスペースは ほとんどなく 回遊性のある間取り。 どの部屋とも ゆるりと繋がっているのが 心地いい。

玄関にはアクセントクロス。 派手なものは好みじゃないけど 柄物のクロスも 色が淡いと、 うるさくなくていいものだなと思う。

リビングの仕切り扉は可動式で 全開にすると抜け感がある。 その広々空間に 足を踏み入れた瞬間、 思わず両手を広げて 伸びをしながら 「ふぅー」と声を出してしまった。

奥のキッチンを見て 「きゃー！」と叫んだのも私。 だって、憧れのミーレの食洗機が ついているんだもん。 それに、海外のお家でよく見るような 造り付けのオーブンまで。 どことなく懐かしさを感じさせる 面材のクリーム色も、いいなぁ。

「憧れてたの、知ってたの？」と彼に聞くと 「いや、これは偶然、ラッキーだった」 と言いながら笑っていた。 なーんだ、株を上げたと思ったのに。

リビングの一角には レンガの壁もあって いいアクセントになっている。

リビングの隣の洋室は 扉を全開にすれば ひと続きのお部屋としても使えそう。

天井にフックがついていたので 洗濯物が干せるのかな、と思ったら なんとハンモック用のフックらしい。 その場でハンモックの値段を調べていたら 彼も同じことをしていて 笑ってしまった。

ウォークインクローゼットは 驚きの大きさ。 セレブか、と言いそうになったけど 衣装持ちの彼はうれしそう。 年中似たようなワンピースばかり 着ている私に対し 彼は襟の形やら袖の長さやら、 違いがわからないような服 （と言ったら怒られる）を たくさん持っているので これぐらい必要なのかも。

タイル張りのおしゃれな洗面所に こちらもミーレの洗濯機。 コロンとした洗面ボウルに モザイクタイルのカラーが さわやかだし 洗面台の横には 拡大鏡まで付いている。

更にお隣のお風呂は、 ガラス張りに 置き式のバスタブときたもんだから いよいよ本当に 海外のお部屋に来たみたい。

トイレも予想外の広さだ。 こんなに広いなら 小さな棚を置いて ポストカードとかお花とか飾って カフェみたいに仕上げても 楽しそうだなぁ。

カーペット敷きのお部屋もあったりと ところどころ落ち着くディテールも 散りばめられている。

このワークスペースを歩きながら 「そういえば、なんだか部屋の中が ずっとあったかいような…」と つぶやいたら なんとこのお部屋、 全ての窓が二重窓なのだと 教えてくれた。

「実はそこがポイントなのだよ。」と 得意げな彼。 だったら、早く教えてよ。

言われてみれば、 はめ殺しの窓もそうだし

キッチンの勝手口まで 徹底して二重になっていた。

おかげで音も漏れにくいし 気密性も高くて 冷暖房費も抑えられるらしい。 いいことづくめじゃないか、と思っていたら 「もしかして、ピアノも置けるかもよ」 と彼が言った。

この建物、楽器は要相談らしいけど お部屋の二重窓は、前オーナーさんが ピアノを弾くために リフォームして付けたみたい。

あぁ、実家に置いてきた 大好きなピアノを いつかは自分の家に持ってきたいと 思っていたの、話したっけ。 さすが、幼馴染兼婚約者。 今度こそ、株を上げたね、 なんてこっそり考えながら

「私たちにぴったりのお部屋を 見つけてくれてありがとう」 と、そっと彼にささやいた。

文・ほしりょうこ 散歩とビールと読書が好きな、元リフォーム屋さん。10年で8回の引越しを経験。もっぱら東京の西側にいます。