ひとつ屋根の下に 誰かと一緒に暮らすなんて、 カケラも想像していなかった。 なのに不思議と波長が合って、 だんだんとふたりのほうが 落ち着いている自分がいて。

あぁ、この気持ちが続くなら 同じ家に住んでもいいかなと。 そう、自然と思えた相手だった。

お互いの部屋を作りつつ、 一緒に過ごす空間もある。 僕たちの理想の間取りを 見つけてきたのは彼のほう。

お互いになるべく 歩きたくないタイプだから、 駅から徒歩1分はうれしい。 疲れて帰ってきても、 すぐそこに家がある。

ダークブラウンの こっくりしたフローリングは、 僕と彼のお気に入り。 朝のさわやかな光も、 夕方のにじんた光も、 濃いブラウンがすべてを とっぷりと吸い込む。

ここに住み始めてから、 焦ることが少なくなった。 くるくる回るシーリングファンを ぼんやり眺める時間もある。

バルコニーに椅子でも置く？と ふたりで話はしたけれど、 まだ用意できていないまま。 手すりにもたれて ポツポツ立ち話をする時間が、 何気に落ち着くからだと思う。

会話は盛り上がらなくていい。 無言のまま海を見て、 波の音を聞いて、 思い出したように 言葉を交わすくらいでいい。

波の音に交じって、 高速道路を走る車の音も 7階の部屋まで届く。 たくさんの人がいるなぁと、 遠くから思うのはすきだ。 人が動いている音、 遠いからこそ愛せる音。

リビングに隣接する 6帖の洋室には、 大容量の棚を置いて ふたりの本をずらりと並べた。

読みたい本を取って、 リビングのソファで 好きなときに各々読む。 飽きたら途中でも棚に戻して、 興味がある本をまた手に取る。

あ、やばい泣きそうだ。 文章に涙腺を刺激されたら、 いそいそと洋室にこもって 引き戸をぴしゃりと閉める。 まだ泣き顔は見られたくないから。

北東側の洋室は彼のもの。 約5帖の部屋の中には、 彼に似合うシンプルな家具。

北西側の6.5帖の洋室は 僕が自由に使っていい。 ふかふかのシングルベッドに、 フローリングに似合う 濃い色のデスクがひとつ。

大容量の収納は、 もう少し活用してよと 収納に言われそうなほど ガラガラでスカスカ。 なにがあるか一目瞭然だから、 これはこれで便利だ。

3口のガスコンロは、 主に彼が使っている。 僕と同じで料理はしないと 勝手に思っていたけれど、 意外と生活能力が高い。

少しだけ悔しいから、 ふと気づいたときに 水回りの掃除をしてる。 ちょっとこするとか、 まぁ、それくらいだけど。

ひとりで眺める海も、 ふたりで眺める海も、 どちらも同じくらい きれいだなぁと思う。

ただ、どちらかというと 横にいてくれたほうが、 いい感じな気はしている。 そっちはどうだろ。 たぶん、聞けそうもないけど。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana