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新しい門出を、優しく包む部屋。

この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。

この部屋の第一印象は
ミモザが似合いそう、だった。
ちょうど大好きなミモザがワサワサと
咲き始める頃に出会った部屋。
大きな磨りガラスを通して届く陽射しは
どこまでも優しい。

ちょうど色んなことに疲れ切っていった私は
ほぉぉと安堵にも近い感嘆の声を上げ
この部屋に帰ってきたい、と強く思った。
早く、少しでも早く、窮屈な実家を出たい。
その一心で探し、出会った部屋。

一人で暮らすなら、と
想定していたサイズより、少し、
いや、倍近く、広い。

まあるいアーチの入り口が
にっこり優しく迎えてくれる部屋は
柔らかい色のフローリングに
淡い水色の巾木がアクセント。

大きな余白が、いいよいいよ、
ゆったりのびのーびしなよ、
って言ってくれてるみたい。

今まで実家で何となく使っていた、
渋い花柄の布団カバー、懸賞で貰った皿、
100円のマグカップ、工務店のタオル…
そういう好きでも嫌いでもなく
何となく使ってるものとも、おさらばだ。
ここは、私の選んだ、私の好きなもの、
だけで埋めるんだ。
生成り色リネンのベッドカバー、
タオル類だって同じ色で揃えるし
アンティークショップで選んだ小さな飾り棚や置物、
かわいいカゴやスツールを置く。
小さな小瓶にはいつだって花を活けるんだ。

そう意気込んで
いざ引っ越してみたものの
引越しって、こんなにお金がかかるんだ…
と、一気に残高が減ったことに恐れをなした。

ここが、家具家電付きだったということに
どれだけ助けられたことか。
しかもちゃんとこの部屋に似合う、
白の木で揃えられた、
ハンガーラックや棚やデスクたち…!
敷いてあるラグもそう。
こういうの、揃えようとすると結構大変。

ありがとう、ありがとうね、
心からそう思いながら、
陽だまりでゴロリする、土曜の昼下がり。

コーヒーショップやカフェ通いも
しばし我慢で、広めの台所で自炊の日々。
美味しいパン屋さんで買ってきたパンに
ストウブの鍋でコトコト煮込んだ具沢山のスープ…
は、まだ作ったことがなくて、
というか、そんな憧れのお鍋もまだお迎えできていない。
簡単な炒め物に、
納豆とごはんで済ませちゃうことも多い。
料理はできない訳じゃないけど、
実家で当たり前に食べていたおかずの味が
全然再現できなくて、愕然とした。

理想と現実って、
なかなかに距離があるもんだなー、
厳しいもんだなー、なんて
思いつつも、この部屋だけは
いつだってかわいくて、優しい。
少しだけ心折れそうな時も
大丈夫だよって、微笑んで
包み込んでくれてる気がする。

コンパクトなお風呂場ではチャチャッと
シャワーだけで済ますこともある。
まとまってくれてるから、掃除はしやすくて
いつもピカピカ、それが自慢。

古い町家や昔ながらの商店が並ぶ、
ゆったりした町の風景もすごく好き。

すぐそばには銭湯もあって

月に何度かは、そこの大きなお風呂に
とっぷり浸かりに行くのを楽しみにすることにした。

昨日の銭湯の帰り、
ぶらりと遠回りしての散歩中、
道端に落ちてた
満開の桜がいくつもついた枝を一本、

小瓶にさして、カウンターに置いた。
この部屋にすごく似合ってる。

漫画を読もうと思ったら
ピンポーンと来た宅配のお兄さん。
クール便で届いた段ボールは実家から。

ビリビリと開けると、いくつも出てくる、
惣菜の詰められたタッパー。
私の好きな、きんぴら、
おからや切り干し大根の煮物、
大根の漬物、菜の花のからし和え。
米。近所の和菓子屋のお饅頭。
それに、手ぬぐいに包まれた
クマのキャラクターが描かれたマグカップ。
「これ、いらん言うたのに」
そうつぶやきながら、
ちょっとだけ視界がにじんだ。
タッパー全部を綺麗に冷蔵庫に並べて、
マグカップを洗って洗いカゴに置いて、
電話をかける。

「あ、お母さん?荷物届いた、ありがとうね。」
「腐らんうちに、はよ冷蔵庫入れときよ。
あんた、乾物で送っても料理せんと思って料理しといたで。
あと、毎日つこてたカップ、忘れとったから入れといたわ。」
「これいらんのにー、まぁいいけど。自炊はしとるよ。」
「どうせ納豆とかで済ませとるんやろ?」
…図星。ははは、と笑ってごまかす。
あんだけ、はよ結婚しろだの、
お見合い写真持ってくるだの言ってたのに
電話では何も言ってこない。
あの攻撃から逃げられただけでも、せいせいしてる。
私だって、何も考えてないわけじゃない。
ただ、私とは真逆の母のペースで
あれこれまくし立てられる日々に
少し嫌気がさしてしまって。

一人になった途端、
あまりに静かで拍子抜けして
仕事から帰ってきても、シンとしてる部屋に
慣れるまでに少しかかった。

送られてきたクマのマグカップに
お湯を注ぎ、緑茶のティーバッグを浸して
お饅頭にぱくり、かぶりつく。
この優しい部屋にいると、
あの時ちょっとキツく言いすぎたかな、とか
家を出る時そっけなさすぎたかな、とか
そんなことばかり気になってしまう。
おかしなもんだな。
今度、惣菜のレシピをいくつか聞いとこう。
次の給料入ったら、憧れのお鍋買おう。
一生使える、いいやつを。

今夜はちゃんと、出汁から味噌汁作ろうか。
どのおかずから食べよかな、
少しウキウキしながら
体を起こしたら、どこからか
桜の花びら一枚、ひらり入ってきた。

引越したての頃に飾った
ミモザのスワッグは、
もうドライフラワーになっている。
やっぱりすごく似合うな。
ふわっと嬉しい気持ちになりながら
台所に立って、お鍋に水を入れた。
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