自分のいる場所から 逃げ出したくなるのは、 なにか変化を求めているとき。 あらゆることを投げ捨てて、 自分を自由にしてあげたいとき。 ふたつの気持ちがふつふつと 爆発しそうになったころ、 この部屋と出会った。

寝る部屋と、食べる部屋。 寝室は聖域のように きれいにしたかったから、 いい間取りだなとしっくりきた。 あとは心にビシビシと 刺さるなにかがあれば…

そして刺さったのが、 この建具の色だった。 雨にしっとりと濡れた 木の色みたいな、 吸い込まれそうなカラー。

視界に入るたびに きっと私を少しだけ 元気にしてくれるだろうと、 「ここにします」と決めた。

玄関を開けるたびに、 私を出迎えてくれる だいすきな色、味方の色。

深みのある色が グッと引き立つように、 周りはあわい色でさりげなく 主張を抑えてあって。

ホワイトのキッチンと やさしい色のフローリングが、 「この方が主役です」と 言わんばかりに私の視線を 自然と扉に集めてくれる。

ここに住み始めてから、 休憩するのが得意になった。 大きな窓からたっぷり 入ってくる光を浴びていると、 焦ってピリピリするのが なんだか馬鹿らしく思えて。

晴れた日には ベランダに出て、 空を眺めてぼんやりする。 いくら目を凝らしても 終わりが見えないくらい 空は高いんだなぁと、 当たり前のことに ひとりで感動したりする。

お風呂はサッと シャワーで流す派だったけど、 最近はたまにお湯をはる。 お湯につかっている 自分の体がとろとろ とろけていきそうで、 きっとこれは気持ちいいって ことなんだなと思った。

トイレではついどっしりと 落ち着いてしまうけど、 別に人を待たせている わけでもないからいいか。 お尻が痛くなるまで ゆっくりするのもよし。

そういえば最近 声を出していないと かすれた喉で気づいたら、 財布だけ持って1階に行く。

季節によって変わる みずみずしい花たちが、 人との出会いを待っている。 「これください」と 店員さんに伝えるくらいの、 少しの会話がちょうどいい。

喉を使ってあげたら、 またいそいそ部屋に戻って 好きなことだけする時間。 私だけの部屋、私の居場所。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana