ふたりともあんまり お金持ちではなくて、 だけど部屋に対しての こだわりはそれぞれ 人一倍あるもんだから。

ふたりで割れば家賃が安い、 かつ心にグッとくる この部屋の雰囲気に、 一緒のタイミングで 「シェアしない？」と 言い出すのは自然のことで。

お互いにバラバラの 創作活動をしているから、 会社やアトリエに 寝泊まりするのは日常茶飯事。 部屋数はひとつでいいよねと、 ふたりで納得して決めた。

久しぶりの我が家に フラフラの状態で帰ると、 まず出迎えてくれるのは さりげないグリーンたち。 僕よりずっと元気だねと 思いながら通り過ぎる。

光が通り抜ける 美しいエントランスは、 僕らの創作意欲を刺激する。

共有部にはオーナーさんが セレクトしたアートたち。

アートの中には、 本人に直接依頼して 制作してもらったものも たくさんあるそうで。 魅力的なアートを見るたびに、 僕も、きっと彼も、 心の中に火をともす。

いつか僕らだって、 「制作してほしい」と 言われる側になってやると。

そしてこのギャラリーに、 僕らの作品がかっこよく 並んだら最高だよねと。 アトリエに戻りたくなる 気持ちをグッとこらえて、 まずは眠ろうと部屋に向かう。

光の差し込む階段は、 寝不足の目にしみる。 シパシパと瞬きしながら、 ゆっくりゆっくり 階段を上がっていく。

たまに号室サインの デザインに心を奪われて、 しばらくぼんやりしてしまう。 またやっちゃったと 気持ちを切り替えながら、 玄関を開けて「ただいま」。

帰宅のタイミングが ふたりとも同じなら、 やる気のない「おー」が 部屋のどこかから返ってくる。

今日はすりガラスの向こう、 キッチンから気だるげな声。

「胃が空っぽだと眠れない」 と料理をする彼も、 先ほど帰宅したらしい。 僕と同じように ヨレヨレになった彼が、 慣れた手つきで フライパンを振っていた。

「食べる？」の問いかけに 「絶対食べる」と同意して、 僕はいそいそお風呂へと。 数日分の皮脂や汗を 眠る前にキレイにしたい。

あまりにも眠いときは、 洗面所で歯磨きだけして 布団にバタリと倒れ込む。 今日はなんとか、 シャワーくらいはできそうだ。

大きな浴槽も魅力的だけど、 お湯の中で眠りそうだから シャワーをサッと浴びるだけ。 それだけでもずいぶん気分がいい。

体が温まった状態で トイレに入ると、 高確率でウトウトする。 「できたぞー」の 彼の声にハッとして、 しっかり流して部屋に戻る。

光がたっぷり差し込む 穏やかな部屋の中に、 おいしそうなにおいが ふわふわと満ちている。

折りたたみ式の ちゃぶ台の上には、 お皿に盛られたチャーハンと 麦茶のコップがふたつずつ。

「ありがとう」と 軽くお礼を伝えてから、 ふたりで手を合わせて 一緒に「いただきます」。

わしわしとチャーハンを 口に放り込みながら、 たわいもないことを ふたりであれこれ話す。 「ねみーねみー」とぼやきつつ、 まだ眠らないおしゃべりたち。

和と洋がしっくりと 溶け合わさったこの部屋は、 僕らの性格や心を やんわりと平和にしてくれる。

すべてをまるっと 受け入れてくれるような、 やさしい包容力を部屋の あちこちから感じるからかな。

風通しのよさはピカイチで、 僕らのイライラやモヤモヤを 気持ちよく吹き飛ばしてくれるし、

無垢材のフローリングは、 歩くたびにすべすべと 足の裏が気持ちいいし。

いい感じにくぼんだ 部屋のスペースには、 お互いの作品を並べている。 増え続ける作品に、 ふたりで苦笑いする日々だ。

最低限の衣類たちは、 この収納にふたり分。 奥行きもあり天袋もあり、 頼もしい収納力だ。

料理はなんだかんだ 彼がやってくれるから、 洗濯は帰宅したときに なるべく僕がやっている。

ふと見上げたときに 視界に入るパイプや コンクリートも、 部屋のセンスを感じられて なかなかうれしくなるのだ。

洗濯物を干したあとに、 バルコニーでぼんやり 空を眺める時間もいい。 この部屋でしか味わえない まったりとした気持ち。

いつまで一緒に暮らすか、 未来のことはわからないけど。 お互いを応援して、認めて、 成功を祝福できるふたりで これからもありたいなと。 眠い目をこすりながらも まだまだ続くおしゃべりの中で、 こっそりそう思うのだ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana