「どこにひかれたの？」と もし誰かに聞かれたら、 たぶんこう答えると思う。 「住人みたいな顔してる、 柱がいいと思ったの」って。

外観もなかなかすてき。 年月を経た木の風合いを、 あえて残してくれている。

レトロなポストもすきなとこ。 どこかゆるい雰囲気が、 建物全体をふわふわと 包み込んでいる気がする。

階段をカンカンと上がり、 向かう先は「202」。

とっぷりと日が沈むと、 マリンランプが202の文字を ぽやりと照らしてくれる。

部屋の間取り図にも ちゃっかり登場している、 一本の柱が私の同居人。 同居人じゃないか、同居柱？ とにかく一緒に暮らしてる。

「ただいまぁ」と、 小さな声でいつもつぶやく。 部屋に対してというより、 これはたぶん柱に向けて。

たっぷり広い 玄関土間のおかげで、 靴を脱ぎ散らかしても 気にならないから助かる。 気が向いたときだけ、 床に転がっている靴たちを せっせと棚に並べたりする。

リビングに入ると、 「おかえり、遅かったね」と 声が聞こえてきそうなくらい 部屋に溶け込んだ柱がいる。 私が楽しいときも悲しいときも、 いつでも変わらずそこにいる。

楽しいときは柱を掴んで くるりと体を回転させて、 ひとりでニンマリしたりする。 悲しいときはおでこを コツンと柱にくっつけて、 うじうじしたり、めそめそしたり。

天井を見上げれば、 そこにもむき出しの木。 いいよ、どこにいても。 一緒に仲よく暮らそうね。

L字型の造作キッチンは、 私の料理意欲を刺激する。 このキッチンに見合うものを 作ってやろうじゃないですかと、 鼻息荒くグッと腕まくり。

手元をパッと照らす光が、 まるでスポットライトみたい。 棚に並べたスパイスたちを、 高い位置から得意げに サッサッと振りかけたりして。

寝室はゆるーく リビングとつながって、 適度なおこもり感が落ち着く。

部屋の床全体が木目の きれいな無垢材だから、 基本は裸足で歩いている。 すべすべの床を足の裏で感じて、 布団にするりとすべり込むのがいい。

見える収納のおかげで、 服が迷子にならなくて助かる。 この部屋に越してきてから、 「こんな服持ってたっけ？」と キョトンとすることが減った。

トイレはおりこうに 角にちょんと収まっている。 バレバレのかくれんぼを しているようでかわいいなと、 はじめて見たとき思った。

洗面台はちんまりしたボウルが たまらなくキュートだけれど、 激しく顔を洗うとあちこちが びちゃびちゃになるから 水はやさしく扱うルール。 そっとすくって、そっと落とす。

まぁるいボウルがいれば、 カクカクの浴槽もいる。 個性豊かな我が家なのです。

外の空気が吸いたくなったら、 窓を開けてベランダに出る。 洗濯物を干しても、 まだまだ余裕な広々サイズ。

周りに高い建物がないから、 深呼吸も気持ちよくできる。 すぅはぁと深く呼吸するうちに、 体の中がきれいになっていく。

この柱が消えてしまったら、 きっと胸にぽっかり穴が 開いたような気持ちになる。 いつでもそこにいてくれて、 私に安心感をくれるから。 これからも変わらずに、 どうかそこにいてくださいね。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana