「ここに住み始めてから 時間がゆっくり流れてる気がする」 と言ったら、彼も 「分かるよ」と言った。

有孔ボードに土間、 塗り壁といったディテールは 場合によっては 無骨な方向に 振り切ってしまいそうだけど この部屋は、それらが 絶妙なさじ加減で溶け合って とても柔らかい印象だ。

1LDKだけど ドアなんかの明確な区切りはない。 「お好きにどうぞ」と 優しく言われているような 腕を試されているような そんな間取りだ。

迷ったけど キッチンと対面になっているし 素直にここに ダイニングテーブルを 置くことにした。 燦燦と降り注ぐ 陽の光を浴びながらの食事は パワーが漲りそうだ。

有孔ボードは 少しずつパーツを買い足して お気に入りの絵葉書や エアプランツなんかを 飾っていく予定。

オープンクローゼットは 頼りになるワイドサイズ。 いつ誰に見られてもいいように 整えておきたいところだけど 念のため、目隠しカーテンも 用意しておこう。 念のためですよ。

その手前には、大きなベッドを どーんと置くぞ。 オープンスペースが ちょっと落ち着かないな、 と思っていたら 彼がパーテーションをDIYした。 部屋と揃いの有孔ボードで よく馴染んでいる。

2人のお気に入りの空間が 3帖ほどの土間。 朝起きて 私がコーヒーを淹れている間に 彼がオープンラックに並べた 大量のレコードから 本日の1枚をチョイス。 レコードプレーヤーに そっと針を落として 土間に並べた観葉植物たちに 水を吹きかけるのが 毎朝のルーティン。

ステンレスの天板が スッキリとしたキッチン。 時々窓の外に目を移して 移り行く空の様子を 眺めながらする料理は 日常の中の 大切なリフレッシュの時間だ。

水回りは キッチンの背面に ぎゅっとまとまっている。 この、居室から ひと呼吸置いた位置、理想的です。

トイレと洗面台の 壁付けの裸電球が ぽわんと優しい。 おっと、脱衣所にもいました、 有孔ボードくん。 背面が有孔ボードだと そこに取り付けられた全てが パーツのようで レゴとかを見ているみたいな 楽しさがある。

お風呂に窓があるのも うれしいな。 自然光が入るお風呂に 日中入るのが好きなんです。

お隣さんは近いけど 顔を合わせちゃうことはなさそう。

広い土間には ちゃんと靴専用の オープンラックも備えられていた。 至れりつくせりの棚の数。

大小の宅配ボックスがあるのも 助かるなぁ。

屋上まであるのは うれしい誤算だった。 時々思い立っては コーヒーをタンブラーに入れて 私は読みかけの本を、 彼は釣り具のメンテナンス道具を それぞれ持って屋上にあがる。 この街並みが眼下に広がると たまらなく ノスタルジックな気分になるのだ。

そしてまた部屋に戻り 少しずつ陽が西に傾く中、 ソファで少しまどろむ。 異素材が優しく溶け合う空間に 私たちも少しずつ馴染んでいく。 あぁ、時間がゆっくりに感じるのは この丁寧に作り込まれた部屋で 日常を慈しむように 過ごしているからなのかも… なんて考えながら そっと目を閉じるのだ。

文・ほしりょうこ 散歩とビールと読書が好きな、元リフォーム屋さん。10年で8回の引越しを経験。もっぱら東京の西側にいます。