この部屋を見つけたとき、 あぁやっと出会えたと 思わず涙がぽろりと流れた。 ところどころにしっかりと こだわりを感じるのに、 がんばりすぎていない感じ。 ちゃんとおしゃれに見えるのに、 ツンと澄ましていない感じ。

フルリノベーションされた シンプルな間取りの1LDKは、 私の生活スタイルに合っている。 広すぎず、狭すぎず。 他の人が入る必要はない、 ひとりをちゃんと守れたらいい。

玄関を開けるたびに、 あぁ勇気を出してよかった、 決断できてよかったと思う。 まだ少しだけ残る、 新しい家のにおい。 これからどんどん 我が家のものに 変わっていくんだろうな。

廊下にたっぷりある棚には、 旅行先で少しずつ集めた お気に入りたちが並んでいる。

疲れて帰ってきたときは、 おりこうに並んでいる子たちを 眺めながら部屋に向かう。 きれいだね、かわいいねと 心の中で愛でるうちに、 ちょっと元気になれるから。

頼もしい頭上の棚には、 コツコツ買い集めた うるわしい靴たちを。 しっかり箱に入れて、 型崩れしないようにね。

かわいらしいサイズの シューズラックには、 使用頻度の高い靴だけを。 季節が変わるたびに いそいそ靴を入れ替えるのも、 けっこう楽しい時間なのです。

大きな窓がいいでしょう。 開放的なリビングダイニングには、 ちょっと奮発したソファと 一枚板のローテーブルを。 同じ映画を連続で見ても、 興味のないテレビを消しても、 突然筋トレを始めても、 誰にも文句は言われない。

気疲れする他人との食事より、 好きなものを好きなだけ 食べられるひとりの食事がいい。 自分の好き嫌いや気分を なによりも大切にして、 その日食べるものを選ぶ。

自分で選ぶリビング照明は とことん迷ったけれど、 最終的には直感で決めた。 あれこれ考え続けるより、 ピンときたものを 自分の力で手に入れたい。 この部屋を決めたときみたいに。

なんだか眠れない夜は、 ベランダに出てちびちび お酒を飲んだりもする。 山手通りをビュンビュン 走る車の流れを見ていると、 いつの間にか眠くなる。

玄関横の洋室は、 ただ眠るための場所。 ここに入ったら自然と まぶたが落ちるように、 なるべくスマホも持ち込まず。 質のいい睡眠のおかげか、 この家に越してきてから 体調がグンとよくなった。

収納はかわいらしいサイズ。 入りきらない服たちは、 部屋のはじっこに置いた オープンラックにかけている。 服を選ぶのが楽しくなるように、 ときめかなくなったら いさぎよく捨てるのがマイルール。

ちょんとした洗面台を、 やわらかく照らす光がすき。 雑に顔を洗うと周りが びしゃびしゃになるから、 洗面ボウルの中にちゃんと おさまるようにやさしく ぬるま湯をすくって落とす。 顔を丁寧に洗うのは、 自分を大切にしているようで なんだか気分もいい。

さわやかなバスルームは、 明るいうちに入ると 気持ちよさがさらに増す。 ホカホカのすっぽんぽんで、 外の光が差し込むリビングに ペタペタ向かうのがすきなのだ。 廊下を水滴で濡らしても、 私が気にしなければそれでOK。

暮らしの中で ちょっとしたところに センスを感じると、 よくぞここを選びましたと 自分を褒めてあげたくなる。 トイレのシックな床とか、 スタイリッシュな ペーパーホルダーとか。

ざらりとした質感が たまらない廊下の モルタル仕上げとか。 一度触ると癖になっちゃう。

「家を買ったの？ひとりなのに？」 と言われたときはびっくりした。 誰かと生活を分かち合うのも とってもすてきなことだけど、 しあわせをひとりでじんわり 噛みしめるのもいいものだよ。

この家から出かけて、 この家に帰ってくる。 これからを想像するだけで、 特大の喜びだなと思えるのです。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana