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どうにかここに帰っておいで。

この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。

ふたりで暮らす部屋だから、 ふたりの希望を詰め込んだ。 それぞれの部屋があって、 日当たりがよくて、 バストイレは別がいい。 そしてなによりも、 肩の力をゆるんと抜ける 穏やかな部屋がいい。

ビシッとした空間が あまり得意ではないふたり。 だからこそ「いいね」と お互いに顔を見合わせて、 内見当日に契約を決めた。

部屋全体にふわふわと ただようゆるい雰囲気。 たっぷりの日の光に、 どこかレトロ感のある オリエンタル柄の床。 明るすぎないやわらかな パステルブルーの壁。 いいね、僕らの部屋だ。

押入れがある和室は彼女に、 もうひとつの和室は僕に。 それぞれ割り当てられた部屋で、 お互いに自由に過ごす。 それぞれの世界を しっかり尊重することが、 平和な共同生活のコツ。
大きな窓から入ってくる たっぷりの風を感じて、 食べたり眠ったり遊んだり。 部屋の中にいながら 日向ぼっこができるから、 やっぱり日当たりを重視して よかったなとしみじみ思う。
窓の外には大きな木。 葉が落ちて、また茂って、 また落ちて、また茂って。 四季の移り変わりを、 木が僕に教えてくれる。
鳥がちゅんちゅんと 遊びに来ることもあって、 その姿に癒されたりもする。 晴れた日にはバルコニーで、 ただぼんやりすることもある。
僕がバルコニーで 時間をつぶしていると、 たまにカラカラと窓を開けて 彼女もひょいと顔を出してくる。 「いい天気だね」「そうだね」と、 たわいもない会話をして 過ごす時間もまたいいものだ。
荷物が少ない僕だから、 和室に置いた引き出しで 服や肌着は片づけられた。 さりげなくついた天袋には、 もう読み終わった 大量の本たちが眠っている。 時間が経てばきっとまた 読みたくなるだろうから、 まだ捨てない、とっておく。
隣の和室を仕切るふすまは 基本的には閉じているけど、 たまに部屋を繋げる夜もある。
怖いことを想像してしまった夜、 退屈でおしゃべりしたい夜、 どうしてもひとりが寂しい夜。 僕たちだからこその距離感で、 遠すぎず、近すぎず。 ひとりを守りながらも、 一緒に同じ夜を超える。
彼女は衣装持ちだから、 押入れからあふれた服が 和室のあちらこちらに そのままになっている。 それはそれで生活感があって いいんじゃないと思うけど、 しわになるからしっかり ハンガーにはかけたいらしい。
奥行きのある押入れを すぐにいっぱいにした 彼女の物欲には関心する。 入らないなら服を減らせばと 言ったこともあるけれど、 「服は武装だから」と 真顔で返されたから それ以上は言わなかった。 彼女を守るものなら、 あればあるほどいいんだろう。
生活リズムがバラバラだから、 食事をするのも各自の タイミングで勝手にやる。 ひとりで食べきれない量を 作ってしまったときは、 「食べてもいいよ」のメモを そっと机に置いておく。
翌朝起きたときに キッチンで見つけるのは、 きれいに洗われた食器と 「ごちそうさま」のメモ。 空になったタッパーを見て、 僕はひとりでこっそり笑う。 たくさん食べたなと思いながら。
お互いに掃除は苦手だけど、 水回りが汚いのはいやだから どうにかきれいにしている。 この前掃除してくれたから 今度は僕の番、次は私の番。 お互いに感謝しながら、 投げやりにならないように。
お風呂のブルーなタイルも、 今でもしっかりピカピカだ。 カビで台無しにならないように、 小まめに丁寧に磨く癖がついた。
お風呂の順番が後の人が、 窓を開けて換気する。 きれいなタイルを保つために、 自然と生まれた我が家のルール。
洗濯物も各自でする。 相手に頼りすぎることなく、 だけど寄り添い暮らす日々。 大切にしたいと思う、 この貴重な関係性を。
ブルーのトイレは、 見るたびになんだか ラムネが飲みたくなる。 夏がとてもよく似合う、 さわやかな色のトイレ。
窓もあるから、 換気も簡単にできる。 においが密室にこもると げんなりするから、 気がついたときに開けている。
靴箱のほとんども、 彼女の靴が占めている。 僕の靴はほんの少しだから 特に困ることはない。 場所や会う相手によって 靴を選ぶ彼女を見て、 なるほど靴も武装なのかと 心の中で納得する。
「行ってらっしゃい」と 「行ってきます」は、 お互いによく言い合う。 外の世界をがんばって 生き抜いてくるんだぞと、 エールを込めて声をかける。
いやなこともつらいことも、 外の世界には山ほどある。 だからこそ、帰ってきたなら ホッと一息つけるといい。 安心して食べて眠って、 疲れを癒せる場所がいい。

僕らは別々の人生だけど、 それでも労うことはできるよ。 どうにかこうにか生き抜いて、 毎日ここに帰っておいで。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana

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