この年末年始はいつもみたいに ワイワイ友人と集まれなかった。

大きくなった姪っ子や 遠く離れて暮らす親に 顔を見せることも叶わなかった。

なにもない。 けれど、 それが新しい幸せを見つけてくれる。 そんなことに気がついた年末年始だった。

予定がないなら年越し前に 大掃除とDIYを2人でやろうって 話になった。

「やっぱり買いすぎたかな」 「いいじゃない、お正月だもの」 手には張り切って買ったお掃除道具と DIY予定の木材たち。 それに、掃除とDIYをやりきったあと ご褒美に食べるご馳走をたっぷりと。

広々とした2Kの我が家。 和室に縁側 それにゆったりとした台所。 新婚にしては随分渋いねって 友だちには言われたけれど 「ここだ！」って2人で決めた家。

んっしょ、んっしょと 荷物を運び カラカラとドアを開ける。

お部屋は洋室と和室1つずつ。 どっちをリビングにする？って迷ったけど 和室にこたつは譲れなかった。

「うぅ、さむいさむい」 ダウンや帽子も着たままで もそもそこたつに潜り込む。

大きな窓に緑の畳 それに、赤いチェックの こたつがひとつ。 これ以上の幸せはあるかしら？

さっそく押し入れを開け 工具を取り出す彼。 「絶対に年を越す前にやり終えるから」 楽しそうに工具を漁る姿は なんとも頼もしい。

「ここらへんに本棚が欲しいんだ」 そんな思いつきから始めたDIY。 年末年始は予定がないからと 思い切って買った話題の漫画を ずらりと本棚に並べるらしい。

トントンカンカン 背中を丸めて作る彼。 かたや私は大掃除。

最後まで後回しにしていたお風呂。 ズボンの裾と袖をまくって せっせと床を磨き上げた。 面倒だと思っていたけど やり始めると止まらない。 窓をガラリと開けると ひんやりした風が気持ちよかった。

お節づくりにも力を入れた。 毎年、実家の母が作ってくれていたから うまく作れるか、ちょっと心配だった。

栗を甘く煮て お芋を蒸して しっかり裏ごし。 紅白なますは 彼の実家の庭で実った柚子を入れた。 ふんわり漂ういい香り。 子どもの頃は あまり好きじゃなかったお節料理も 自分で作るとこんなにワクワクするんだ。 そんなことも初めて知った。

「美味しそう」 「実家の味だから、 好みに合うか分からないけど」 ヒョイと栗をつまみ食いして うま、と目を見開く彼。 2人並んでも余裕のキッチン やっぱりよかったな、なんて思ったんだ。

だんだん日が暮れてきて ダイニングにお皿を並べ始める。 お節料理のあまりをおつまみにして 生ハムといろんな種類のチーズ。 それにお蕎麦を 2人でのんびり食べる年越しだ。

テレビを点ければ 一気に漂う年末ムード。 「あ、この歌好きだな」 ようやく棚を作り終えた彼が ビールを持ってやってきた。

「ちょっと縁側で飲まないか」 「えぇ、こんなに寒いのに？」 まぁまぁ、と言いながら 縁側に座る。

「どんな年だった？」 「そうねぇ、なかなか大変な年だったよね」 ビールをカンと合わせて振り返る。 「でも、いろんなことに気がついた」 「家庭菜園も始めたしね」

外に出にくい時期に この縁側での彼との会話に 何度救われただろう。

「うー、やっぱり寒い！」 「あはは、温まりながら年越ししよう」 手を擦りながら部屋に戻る。 夏に流行ったラブソングがテレビから流れて 思わず口ずさんだ。

そういえば、結婚3年目にして 初めてだったんだな。 実家にも帰らず忘年会もなく 夫婦水入らずでただただゆるりと この家で過ごしたのは。

文・よしだゆき 街散策とタイルをこよなく愛するフリーライター。元住宅情報誌編集者。築35年の中古マンションをフルリノベして暮らす2児の母。