思わずハッと 息を呑むほどの、 凛とした美しさ。 自然としゃんと背筋が伸びる 元旅籠（はたご）を、 今回はご紹介させてください。

約150年前に建てられた 歴史ある物件を、 現オーナーさまが5年前に購入。 古きよき世界観を 丁寧に残しつつ、 居心地がさらによくなるよう リノベーションされました。

物件が生まれ変わるまでの ストーリーもいいのです。 現オーナーさまがお散歩中に、 空き家となり荒れ果てていた この物件を偶然に見つけたそうで。 ご契約後は建物内外に大量に 残されていた荷物やゴミを、 ご自身が中心となって すべてきれいにしたんですって！

まるで1本の映画のよう。 現オーナーさまに 見つけてもらったとき、 きっと物件はとてもとても うれしかったと思うんです。

元旅籠（はたご）、 宿泊施設のことですね。 たくさんの旅人が ここで体を休めたのかな。

お住まいになるのも もちろんすてきだけれど、 例えばゲストハウス、 例えば宿泊施設や和カフェ、 例えばレストランや雑貨店。 どうすればこの物件を 活かすことができるかと、 頭を悩ませるのもまた 楽しいのではないでしょうか。

元旅籠の玄関だけあって、 威厳のあるたたずまい。 風格のある天井の梁に、 和の雰囲気がたまらない石畳。 味わいのある壁に、 さりげなくちょんとある照明。 いいですねぇ、いいですねぇ。

こちらは1階のダイニング。 深みのあるこっくりした 木の色に見惚れてしまうな。 リノベーションによって 2階の床が一部抜かれて、 1階にもやわらかく 日の光が降り注ぎます。

江戸時代から令和まで、 少しずつ、少しずつ 時を刻んできた古民家。 江戸の空気感が じんわり残っているようで、 胸のあたりが切なくなります。

たくさんの人が この空間に足を踏み入れて、 笑って泣いて怒って、 日々を過ごしていたんでしょうね。 この柱、江戸時代に 旅人も触れたかなぁと 考えるだけでグッとくる。

こちらは間取り図で 見ると1階の「中の間」。 和室が3つ連なった、 真ん中のお部屋です。

いつもはお部屋を ひとつずつ使用して。 ご家族やご友人を お招きしたときは ふすまを開けて、 大きなひとつの空間に 変身させるのもいいですね。

こちらは2階の和室。 これは…なかなか ためらう提案ですが、 時代劇ごっこなんて できそうではないですか。 えらい人の役が奥に座って、 「○○さまのおな～り～」。

まるで撮影のセットのよう。 お部屋で過ごすときは、 夏は浴衣に冬ははんてん。 和を意識して過ごしたいな。

あぁ、圧巻です…！ 2階の大梁と板の間、 よくぞ残してくれました。 新しさが生まれる中で 歴史が途絶えることも 多いこの世の中で、 震えるほどの美を 受け継いでくれていること。

ありがとうございますと、 ここで感謝を心に刻みます。 懐かしさに敬意をもって 新しさが加わっていくのは、 ついうれしくなっちゃいますね。

手を入れるまでは 樹木が鬱蒼として 暗いお庭だったそうですが、 いまではこんなに美しい。 日常的に気負わず 散歩や日光浴ができそうな、 やさしさのあるお庭です。

場所は山形県の 「かみのやま温泉駅」。 駅名の通り温泉街で、 天然温泉の湧く浴場が 徒歩圏内にあるそうですよ。

かつてこの地で 暮らしていた方々も、 下駄をカラコロ鳴らしながら 温泉へと向かったのかな。 あちこちに残る懐かしさと、 そっと寄り添って過ごす。 想像するだけで、 心がじんわりと あたたかくなる日々ですね。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana