お互いに自宅で 仕事をするようになって、 あれよあれよと夏になり 秋になり、冬になった。

たまに過ごす一緒の休日に、 彼女がふとつぶやいた。 「どこにでも住めるよねぇ」

その言葉が、きっかけ。

私が引っ越しを決めて、 彼女もそれにのっかった。 「私もついてく」って、 そんなに簡単でいいの？と 聞きそうになったけれど。 一緒に住んでくれるなら 別にそれでいいかと、 言葉をごくんと飲み込んだ。

「食べる」と「寝る」を わけられる間取りで、 広いバルコニーがあって、 なにより家賃が安いところ。 そうして見つけた レトロなマンション。 家賃は4万7000円。

ふたりで住むには ちょっと狭いかなと 少し心配だったけれど、 ダイニングが7.5帖だから 意外とゆったり暮らせている。

絶対に置きたかった ソファとローテーブルも、 お気に入りを見つけられた。 家賃のおかげで 生活費が浮いたから、 その分食費に回している。

料理をするときは、 キッチンの窓を開ける。 夕方ごろに外にただよう ごはんのにおいたち、 その中のひとつが我が家。

においにつられて、 仕事中の彼女がたまに ひょっこりやってくる。 料理は私、掃除は彼女。 家事分担が仲よしの秘訣。

部屋全体がまったりして、 どこかウトウトしている この雰囲気がすきだ。 新しい街で暮らす緊張を、 ゆるりとほぐしてくれた。

窓から見える緑には、 何度も元気をもらっている。 「よく来たね、いい街だよ」って、 言ってくれているみたいでしょ。

凝り性の彼女は、 掃除にも手を抜かない。 入居したころの 洗面台のピカピカは、 いまでもしっかり保たれている。 掃除用具を目的別に 使い分けるのがコツらしい。

トイレに窓があるの、 実は最初は恥ずかしかった。 でも、いまはこの 適度な解放感がすきだ。 ゆるく光を通してくれて、 日中は電気をつけなくても 大丈夫なくらい明るい。

夜になったら、 シャワールームで 軽くささっと汗を流す。

「おふろめんどい」 「まじでわかる」と 会話するふたりだったから、 浴槽がなくても意外と平気。

広いバルコニーは、 ふたりのお気に入りの場所。 洗濯物が干してある横で、 たまに一緒に日向ぼっこする。 フローラルの柔軟剤の香りが、 風が吹くたびに ふわふわと鼻をくすぐる。

1階にはかわいらしい お花屋さんがあって、 休日に買うこともある。 緑に囲まれたマンションに ぴったりのお店だなって、 心の中でしみじみ思う。 店員さんと仲よくなれたら、 直接伝えられるかな。

仕事の休憩中は、 マンション前の公園に 彼女とふたりで和みに行く。

さわさわ揺れる葉の音に、 元気に遊ぶ子どもの声。 「のどかだね」とつぶやくのは、 私だったり彼女だったりする。

のどかだね、いい街だ。 これからの私たちが、 ふたりで過ごしていく街だ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana