まるで守られているような コンクリートキューブの中で、 今日もわたしたちは呼吸する。 ふたりで肩を寄せ合って、 相手のことを気遣いながら。

「ふたり入居も相談できるって」 彼女の言葉をきっかけに、 少しずつ身を寄せたこの部屋。

くるりと見渡せば 必ず視界に片方が入る、 こじんまりとした空間。 それがたまらなく心地いい。

仕事から疲れて 帰ってきた彼女の顔が、 扉の向こうにひょこっと。 眉間に寄せられたしわが、 「おかえり」と声をかけると やわらかくゆるむのがいい。

ふたり分の服たちで ふくれたクローゼット。 あまり増やしすぎても 収納できなくなるから、 自然と服や小物を シェアするようになった。

仕事の愚痴を、 彼女はあまり言わない。 けれど疲れているときは、 無言のひっつきむしになる。 身体の一部がぺたりと くっついているときは、 いまは充電中なんだなと 思うようにしている。

それでも元気が なかなか復活しないときは、 冷蔵庫からお酒を持って、 バルコニーから手招きする。 静かに乾杯して ちびりちびりと飲むうちに、 「おなかすいたな」と 彼女がつぶやく。 それが復活の合図。

ふたりとも料理は 得意ではないけれど、 だからこそ上手にできたら ものすごく褒め合う。

焦げていない炒め物、 しょっぱくない煮物、 ふやけていない麺類。 おいしいねと言いながら、 ふたりで一緒に食べる。 面倒な洗い物も、 片方がそばにいれば 楽しい会話の時間になる。

ひとりになりたいと思っても、 ひとりになれないこの家がいい。 たとえ喧嘩をしても、 仲直りのきっかけが あちらこちらに転がっている。 いま相手がなにをしているか、 ぼんやり伝わるこの家がいい。

ふたりで入る ぎゅうぎゅうのお風呂も、 まだまだ味わっていたいでしょ。 浴槽から流れていくお湯を、 もったいないと笑おうよ。 そっちが入ったときのほうが 多く流れていったって、 いじわるを言い合おう。

トイレに本を持ち込んで じっとこもる彼女の癖は、 なかなか直りそうにない。 我慢ができそうなときは、 しばらく待ってあげるけど。 ノックしたときはピンチだから、 どうかスムーズに出てきてほしい。

ひんやりした コンクリートを感じながら、 玄関まで歩く時間がすき。 ガッチリ固めた気持ちは ここらへんで脱ぎ捨てる。 肩の力が抜ける部屋で、 素直にとろけていたいから。

今日は私が「ただいま」かな、 それともやっぱり 「おかえり」のほうかな。 いてくれたらうれしいけど、 部屋で彼女を待つ時間も それはそれですきだから、 どっちでもいいや。

まだしばらくは、 ぎゅうぎゅうで過ごそう。 大きくはないマットレスで、 くっついて眠ろう。 そろそろ寒くなるころだよ。 体温が高い私のことが、 きっとあなたも必要でしょ。

文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana