トリック・オア・トリート!
この物件は現在は募集終了している可能性が高いです。過去物件のアーカイブとしてお楽しみ下さい。
かぼちゃの中身をくり抜いて、 顔を彫ったら頭に被ろう。 汚れたシーツはさらに破いて、 くるんと体に巻き付けて。 ふよふよ浮かぶおばけになって、 あっちへふらり、こっちへゆらり。 魔女も吸血鬼もみんな集まって、 楽しい夜を過ごしちゃお。 だって今日は楽しい楽しい、 年に1度のハロウィンだ! 外から見てもわからない、 話を聞いても想像できない。 お部屋の中がどうなってるか、 中でなにが起きているか。 いくらじっくり眺めても、 なかなか中身は見えてこない。 間取り図だけ見たら、 きっとなにも気づかない。 住みやすそうな1LDKね、 そう思って終わりかも。 だけどお部屋に入ったら、 ドキドキが止まらないはず。 好奇心のおもむくままに、 目がキョロキョロと動くはず。
壁も床も天井も、 すべてがまるでテーマパーク! お菓子を持ってこないと、 ここから出してあげないぞ。 世間のしがらみは丸めてポイ! ハロウィンのおばけたちに、 堅苦しさはいらないでしょ。 るんたるんたと歌いながら、 お腹が空いたらお菓子をつまむ。 お部屋の中にドラム缶、 ふつうはないでしょって? そう、ふつうはないけれど。 このお部屋にふつうはないよ、 そんなつまらないものは どこかに消えてしまったの。 変わったところばかりでしょう、 それがおもしろいでしょう? あれ?ふつうってなんだっけって、 よくわからなくなってくるでしょう。 おばけだろうが人間だろうが、 吸血鬼だろうが魔女だろうが、 大した違いはないのです。 ここに住んでいるうちに、 大きな違いはただの個性へ。 まぁ楽しければいいかと、 そう思えてくるはずだから。 でもでも、 たまには人間に 戻りたいときもある。 そんな人でも大丈夫!
人間の気持ちに戻って、 ピカピカのキッチンで ご飯づくりをしたり、 現代風のお風呂で ゆったり疲れを癒したり、 大量の服たちを洗濯機で ごうんごうんと回したり。 よし!今から人間!と スイッチを入れたら、 いつでもあちらの世界から こちらに戻ってこられますよ。 ハロウィンの魔法の世界と、 人間としての日常と。 どちらもほしいところだけ、 ひょいひょいと すくい取ってくださいな。 夢から覚めるような シンプルなトイレは、 ご自身で飾ってもよし。 ふぅと一息つくために、 そのままにしてもよし。 リビングの手前にある クローゼットには、 どんな服が似合うかな。 どうせだったら魔女の帽子や、 ミイラのながーい包帯を ひっかけておきたいけれど… 外に出るときに困らないように、 人間に変身する服たちも いくつか用意しておかなくちゃ。 バルコニーから外を見れば、 そこには人間たちの世界。 ガタンゴトンと電車が走り、 目の前を通り過ぎる。 きっと夜に外を見たら、 にししと得意げな顔になる。 中身を知っているのは自分だけ、 外からはカケラも わからないだろうって。 優越感をホクホクと抱えて、 不思議の世界へするりと旅立つ。 時計はあえて 針をぐるぐる回して、 とんちんかんな時間にする。 時間なんてわからなくても、 飽きたら眠りにつけばいい。 起きていたいならそのままで。 ワガママに過ごせるのは、 おばけたちの特権だから。 今日は人間やーめよ! そんな気分でおばけを始める。 面倒なことは後回しにして、 楽しいことだけ詰め込んで。 おばけだから仕方ない、 つまらないことは見えないの。 見たいものだけ見えるおばけ。
ハロウィンが終わっても、 終わらないと思えばまだ続く。 だってこのお部屋では、 ふつうもあたりまえも なにもないから。 好きなお菓子だけ抱えて、 好きなように過ごしましょ。 今日も明日も明後日も、 ニンマリニシシと笑いましょ。
文・くまのなな 東京都在住のフリーライター。1991年生まれ。漫画と水遊びとおもちが好きです。主にツイッターにいます。 @kmn_nana